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「脳梗塞になってよかった」オープンガーデン始めた76才女性がそう語る理由

森田さん

最愛の夫を失った悲しみを癒したのもまた、庭だった(写真/森田光江さん提供)

 東京都小平市に、1000坪という広大で美しい庭がある。その庭は「森田オープンガーデン」。オーナーである森田光江さん(76才)が半生をかけて造り上げたもの。最愛の夫との別れのときも、自らの病で倒れたときも、色とりどりの草木たちは彼女を励ますように花を咲かせ続けた。

 その日、いつものように庭仕事をしていた森田さんは急に手足に違和感を覚えた。

「あれ? なんだか私、おかしいわ、と思ったんです。靴ひもがうまく結べないし、トイレに行くこともできない」

 たまたま庭に来ていた友人が森田さんの娘に連絡し、救急車で病院に運ばれて事なきを得た。あと一歩遅かったら危険な状況だった。

「お友達が近くにいてくれて助かりました。以前、『ピアノの発表会で飾るお花が欲しい』と訪ねて来た人が、『とっても長持ちして、ありがたかった』とお礼を言いにいらしていたんです。命の大恩人ね。

 普段はみんなが寝ている朝4時から夕方遅くまでずっと外で作業をしているので、誰もいないときに倒れていたら病院に行くのが遅れて、危なかったと思います。脳梗塞は6時間以内に処置しないと危険だといいますから。早期発見できたこともあり、1か月の入院を経て、いまは後遺症もなく家に戻ることができました」

 病気になる前の森田さんは、毎日早朝からひとり庭に向かい、花が咲いている時期は日が暮れるまで、草むしり、植え替え、水やりに励んでいた。冬の間も堆肥を集めて腐葉土づくりをしたり庭仕事の合間に果樹酒をつくったり。一年中休む間もなく、気がついたら深夜の2時まで庭にいたこともあったという。しかし大病を経て、その日々は大きく変化した。

「私は努力家の父から『世の中、天才はいない。人より努力した人が花開く。だから何でもいいから一番になりなさい』と繰り返し聞かされて育ちました。自分にとっての“一番”とは何だろうと考えたとき、それは庭仕事だった。だから端から端まですべて自分で面倒をみて、雑草一本生やすこともしないよう一生懸命やっていました。

 ですが倒れた後、娘から『もう努力はいいのよ。これまでよく働いたからゆっくり静養しなさい、と神様がご褒美をくれたんだよ』と言われて、その通りだなあと思いました。
 いまは『今日はここまででいいや』と作業を早めに切り上げるようになりました。おかげで、本を読んだり、孫と遊びに行ったりする時間ができました」

 現在の「森田オープンガーデン」を歩いてみると、季節の花々に交じって名もなき雑草があちこちに生えている。しかしそれらは、ていねいに植えられたはずの花といつの間にか調和が取れ、自然のありのままの姿を見せる庭の新たな魅力となっている。

「花からこぼれた種を生かして、あくまで自然のままに育てるようになりました。いわばここは“普段着のお庭”です」

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