病気をきっかけに家族との関係も変化した。
「これまで一度も庭に足を踏み入れたことのなかった娘が、草取りや収穫を手伝ってくれるようになったんです。この夏は庭にできたブルーベリーでジャムを作ってくれました。それに大学生の孫も『何かやることない?』と庭仕事をしてくれるようになりました。
入院中の1か月は家族や近所の人に庭を守ってもらいました。もし病気にならなかったら、娘や孫がガーデンで作業することなど一生なかったかもしれないし、私自身、人のありがたみをここまで感じられることはなかったと思う。私、脳梗塞になって本当によかったと思っているの」
病気さえも前向きに受け入れてしまう森田さんだが、その源は、ほかならぬ「庭」がもたらしているのではないか。認知症専門医で、いのくちファミリークリニック院長の遠藤英俊さんはこう指摘する。
「庭や植物が心身に与える効能は、医学会でも『ガーデンセラピー』として注目されています。庭を造ったり土に触れたりすることで心が満たされ、気分が向上して健康につながることが明らかになっており、特にアメリカではリハビリなどの現場で積極的に取り入れられています」
オープンガーデンウォーク協会代表の森山みちこさんも、緑に触れることで高い健康効果が得られると声を揃える。
「“緑が見える場所に入院中の患者は入院日数が短くなる”“中庭がある共同住宅に暮らす人は互いに助け合うようになる”など、さまざまな研究結果が世界中で報告されています。私も庭をめぐるオープンガーデンツアーを東京で20年以上続けていますが、緑に触れる参加者は、非常に満ち足りた表情をしています。持病のある60代の男性がバラを育て始めたことで元気を取り戻した例もありました」(森山さん)
古来、人間が親しんできた「庭いじり」には、意外なほど大きな可能性が潜んでいるのかもしれない。森田さん自身、退院する際に担当医からこう元気づけられたという。
「森田さんのリハビリは完璧ですよ。ガーデニングこそ、いちばんの薬ですから」
※女性セブン2021年10月14日号