しかしながら、田舎は閉鎖的で外から来る人が溶け込みにくいイメージがある。
「大森町は、かつて銀山が栄えた大都市で、全国からたくさんの人が集まっていたので、もともと外の人を自然に受け入れる土壌があります。ですから、あまり閉鎖的ではなく、町全体に家族的なあたたかい雰囲気があります。私も40年前に、ここに嫁いだよそものですが、この町に来た当初から、ほっとするような安心感がありましたね。田舎でも歴史をひも解けば、かつては外からやってくる人を受け入れていた開放的な土壌があるかもしれません。そういうところなら移住しやすいかもしれません」(松場登美さん)
大森町はオンとオフがとけ合う町
実際に大森町に移住した若者にも話を聞いてみよう。株式会社石見銀山生活観光研究所でPRを担当する三浦 類さんは1986年、愛知県名古屋市生まれ。東京外語大学在学中に1カ月のインターン経験を経て卒業後、2011年に入社し、大森町に移住した。
「大森町は重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に選定されていますので、建物の外観は江戸時代そのものですが、そこに現代の暮らしが息づいているという不思議な町です。
タイムスリップ感があって、この町に暮らすこと自体ワクワクします。また自然も多いので、山でとった猪や海で釣った魚を自分たちで料理して食べるといった暮らしも楽しめますね。それから人と人とのつながりも強く、最初に来たころは町の人たちが、温泉や海などに遊びに連れて行ってくれました。今は仕事として、大森町の暮らしを発信するPR紙やオンラインサイトの読み物コンテンツをつくっていますが、そういう仕事をするなかで、町に関わることも出てくるし、暮らしを楽しむことがネタになることも多い。ですからオンとオフが混じり合っていて、いつでも自然体でいられて、すごく心地いいですね」
移住して10年。今は岐阜出身の妻と2歳の娘とともにこの町の暮らしを楽しんでいる。
「妻はこちらに来たばかりのころは家族や友だちとはなれて寂しがっていましたが、近所の人がすぐに受け入れてくれるうちに気持ちがほぐれて、暮らしを楽しむようになりました。娘が生まれたときも、近所の人たちは誕生を喜んでくれて、出会えば名前を呼んでくれて、あたたかく成長を見守ってくださっています。最近、娘は保育園に行き始めましたが、もともと知っている子たちばかりだったので、すぐになじみました」(同前)