若者が関われる余白がある
「ここには希望がある」と、はるばるアメリカからやってきたのは、㈱石見銀山生活観光研究所で、インバウンド事業や「梅花ビール」の開発・販売を担当する伊藤俊一さん。1995年生まれの伊藤さんはアメリカ・ロサンゼルス生まれ。父は日本人、母は日米ハーフで、10歳まで横浜で過ごしたあと、アメリカ・ニュージャージーへ。大森町のことを知ったのは、カリフォルニア大学バークレー校に在学中のときだった。
「当時、僕はアメリカの大学で社会学を学んでいましたが、なかでも興味を持っていたのが『希望学』という学問。学ぶうちに、近年の日本の社会は希望を持ちづらくなっている現状を知りました。そんなとき、たまたま大森町と群言堂を取り上げているテレビ番組を見たんです。そこに出てきた大森町の若者たちは、経済だけでなく文化のことを話し合っていて、そこでの暮らしを心から楽しんでいるように見えたんです。実際にそこで起こっていることを確かめたいと、在学中にインターンを申し込んだのが最初に大森町を訪れたきっかけです」
大学卒業後に移住。ここで3年暮らした伊藤さんが、いちばん感じる大森の魅力は、町の人たちのあたたかさだという。
「僕のようなよそものが入っても、ご近所さんは、面倒をみてくれたり、心配してくれたり、すごくあたたかい。大森町は美しい町並みが魅力ですが、その町をつくっているのも、ここに住んでいる人ですから、やはり人の素晴らしさが第一にあります」
また、ここに若者が集まってくる理由を次のように分析する。
「やはり仕事があるからだと思います。仕事が得られれば、ある程度、安定した収入が得られるので、家族で住むこともできます。プラス、仕事には若者が関われる余白があるので、自分らしい仕事や場所をつくれるのではないかという希望があります。そういう意味で、ここは可能性のある町だと思います」
伊藤さん自身、入社当時は外国からの観光客を案内するなどのインバウンド事業を担当していたが、コロナ禍で大きく状況が変わってからは、隣町の地ビールの醸造所と組んで、石見銀山の梅の花に生息する梅花酵母を使ったクラフトビールづくりに本格的に取り組み始めた。大森町に住み始めてから、仕事や暮らしを通して、自分の目指していることや考えていることが、少しずつ叶っているという。
若者にとって大森町という町は、都会では得られない新たな可能性を感じさせる町なのだ。