「さくらももこ先生がすごく好きなんです」(写真:小倉雄一郎)
では「小説」はどのように書き進められたのだろうか。岩井が続ける。
「エッセイの延長にある空気感から始めようとは思いました。それで、ちょっとファンタジーが入っているじゃないですか? でも特に何も起こらない。僕、そういうファンタジーの無駄遣いが好きなんです。異世界に行っているのに何も特別なことが起こらない、現実で起こり得ることしか発生しない、みたいな。
芸人としても、ずっとそういう趣向の笑いが好きなんですよね。『何やってんの!? フツーに買い物しちゃってんじゃん!』ってツッコミを入れたくなるような。実際にそういうネタを作ったこともあるんですよ。
異世界から妖精が『大変だ! 助けてくれ!』って話しかけてきて、普通だったら『ゴブリンに攻め込まれている!』とかになりますけど、『少子化が進んで大変なんだ!』って訴えかけるという(笑)。それって人間社会で起こり得ることを突きつけられているだけで、異世界ネタである必要はないですよね。でもそういう感じが好きで」
つまり、漫才のネタ作りと執筆活動は地続きになっている。笑いのポイントが同じなのだ。ではそうした「ファンタジーの無駄遣い」という点で彼が影響を受けた作品とはなんだろうか。
「僕はさくらももこ先生がすごく好きなんです。特に『コジコジ』。あれもメルヘンで幻想的な世界ですけど、物語の内容は例えば『半魚鳥の次郎くんがお母さんに怒られている』とか、別にファンタジーである必要も半魚鳥のキャラクターである必要もないですよね。そういう無駄遣いがとても面白い。
あと最近だと『宇宙戦艦ティラミス』という漫画があって、パッと見は大宇宙を舞台に巨大ロボットが登場するSF作品という設定なんですよ。けれど内容はシュールなギャグ漫画で、例えば出撃前にコクピット内で串カツを食べようとして、ソースをつけたら衣が剥がれて『うわー! コクピットが汚れちゃうよ!』とか慌ててたり(笑)。『それ宇宙でやる必要ないじゃん!』っていう話が延々と続くんですね」