ひきこもりは年々高齢化している(写真はイメージ)
80代の親が50代の子供の生活を支える「8050問題」。背景にあるのは、子供の「ひきこもり」だ。内閣府によると、全国でひきこもり状態にある40才から64才は61万3000人にのぼるという。さらに若い年代と合わせれば、その数は100万人を超えるとも言われ、年々深刻さを増している。実際の事例とともに、『8050 親の「傾聴」が子どもを救う』(マキノ出版)の著者で精神科医の最上悠さんが、ひきこもりが生まれる理由や対処法について教えてくれた。
毎日さまざまな精神疾患を抱える患者を診療し、それぞれで異なる家族の問題に寄り添ってきた最上さん。その中で最上さんは、「ひきこもりから立ち直った全てのケースで、ターニングポイントになっているのは、親による子供への『傾聴と共感』です」と話す。20年の引きこもり生活を経て、70代半ばの母親と相談に訪れたYさん(40代後半・男性)も、“傾聴と共感”に重きを置く「家族療法」に辿り着いた1人だ。
「ひきこもりのきっかけは父の存在でした。私は、地元でも名の知れた大地主の家に生まれ、厳格な父の元で、幼い頃から『お前は跡取りなんだから、立派になってもらわないと困る』と言い聞かされて育ちました。必死に勉強し、高校は地元でも有名な進学校に進みましたが、高校2年の頃から徐々に成績が落ち始め、休みがちになってしまったんです。それでも何とか卒業し、地方の国立大学に現役合格できたのですが、父は『そんな大学を出たところでどうなる』と私を責めるようになった。私は何もやる気が起きず、次第に大学に行けなくなって下宿先のアパートにひきこもるようになってしまったんです」(Yさん・以下同)
しかし、それからしばらくして父親が病気で急死。Yさんは実家に戻ることになったが、父親の呪縛から解放されるかと思いきや、さらに追い打ちをかける現実が待っていた。
「実家に戻ると、今度は厳しい祖母と口うるさい親戚が待っていました。『大地主の跡取りが大学も出ないでひきこもりなんて許されない』、そんな雰囲気でした。祖母は、父も頭が上がらない程の厳しい人だったので、そんな祖母や親戚の手前、母もとにかく波風を立てないように振る舞うばかりで、私の味方はしてくれませんでした」
Yさんは、何とか現状から抜け出そうと精神科を受診するようになった。しかし、どの医師やカウンセラーの治療も、Yさんをひきこもりから救い出すことは出来なかったという。
「結局、これまで7人の医者にかかりましたが、一向に症状は変わりませんでした。気付けばひきこもり生活を始めて20年が過ぎ、年齢は40才になっていた。ここまで長引くと、母も『このままひきこもらせておけばいい』とさじを投げていたようです。そんなある日、状況を見かねた母方の親戚が、『「家族療法」という引きこもり改善の新しい治療法があるみたいよ』と勧めてくれて、その道の専門家に辿り着いたんです」