手術の有無別「がん5年生存率」【前立腺、胃、大腸】
4分類した初回治療のうち、手術は旧来の「開腹・開胸手術」と、皮膚を小さく切開して挿入する腹腔鏡(胸腔鏡)を用いた「腹腔鏡下(胸腔鏡下)手術」に分けている。その他、体にメスを入れずに口や肛門などから内視鏡を入れてがんを治療(切除)する「内視鏡治療」、抗がん剤や放射線治療、経過観察を含む「手術なし」がある。
これを見ると、ケースによっては「切らなくても生存率が高い」がん治療の選択肢があることがわかる。
まず、ステージ1~3の「手術なし」の5年生存率がどの年齢層でも95%以上の前立腺がんだ。男性の部位別がん罹患数で最多(9万人超。2018年)だが、ステージ1、2の初回治療の成績は50代以上の全年代で「手術なし」の5年生存率が100%だった。
今や前立腺がんは、見つかっても手術などの治療を行なわない「監視療法」が選択肢のひとつになっている。
「一般的にはがんは発見されたら『すぐに治療』と考えますが、世界的にも前立腺がんは監視療法が推奨されています。これは数か月ごとに検査を行ない、症状の悪化が見られた時点で初めて治療を開始するものです」(室井氏)
なぜ「治療しない」が選択肢になるのか。
「前立腺がんの手術の場合、男性器周辺の神経を損傷して排尿障害やED(勃起不全)などの合併症が起きるリスクがあるからです」(上医師)
同様に、胃がんのステージ1では「内視鏡治療」が50代以上の全年代で5年生存率100%となっている。これは旧来の開腹手術を上回る結果だ。
胃がんも“切らない”選択が患者のために良いケースがあると語るのが『親子で考える「がん」予習ノート』(角川新書)の著書がある一石英一郎医師(国際医療福祉大学病院教授)だ。
「口から挿入した内視鏡でモニターを確認しながら胃がんを切除する内視鏡治療は痛みも身体への負担も少なく、治療後の回復も早いというメリットがあります。
そのため、最近はがん細胞の浸潤(周囲の組織への広がり)が浅く狭い場合は内視鏡治療で取り除くことがあります。手術のデメリット(創感染などの合併症、回復までの時間など)を考えると、胃がんのステージ1なら日々技術が進歩している内視鏡治療のほうがいいでしょう」