香港で中国メディアの取材を受ける、中国で最も人気があるK-POPアイドルのひとりEXOのチャンヨル。日本の女性声優も同じように中国メディアに囲まれるようになるか(Imaginechina/時事通信フォト)
ありえない話ではないから恐ろしい。実際、日本の声優は本当に安い。さまざまな歴史と条件闘争の積み重ねで作られた日俳連のランク制だが、30年以上の時を経て時代にそぐわなくなってきている。一言だろうとガヤだろうとギャラは同じ、これは下積みからの年功序列的な1980年代の声優業界では役者を平等に守る役目を果たしたが、もう声優は裏方というだけではなくなってしまった。実際、多くの若手声優がこぞってソシャゲに出演している。もちろん中国のソシャゲにも。
「もちろんリスクはありますよ。でもギャラは桁違いですからね。実際、多少の問題が起きたところで全声優が中国怖い、中国のソシャゲ出ない、なんてないわけですから」
靖国参拝により出演作をカットされたとされる人気女性声優の被害は記憶に新しい。しかし栗田氏の言う通り、誰も中国の仕事を辞めていない。むしろ次々と中国の大作、話題作に出演している。声の職人であり、役者という職業である彼女たちからすれば仕事をするのは当たり前、チャイナリスクは百も承知だが日本が安すぎるのだからしょうがない。
「日本の声優事務所を欲しがる可能性もあります。そのほうが手っ取り早いし、金はある」
すでに韓国では大手芸能事務所が世界的巨大IT企業アリババグループの軍門に下った。好調なK-POPも中国の巨大資本に脅かされている。それも中国政府がK-POP規制をし、それを盾に中国企業がK-POP業界をゆするという手口だ。いずれ日本も同じようになる可能性が高い。そのターゲットは大半の日本人も「まさか」の声優事務所かもしれない。
「プロデューサー曰く、日本の女性声優のトップ級なら年1億でも構わないと言ってます」
中国で出演料が1億円は主役級なら普通である。むしろ1本1億円でなく年1億円なので安い部類だ。実際、日本のトップ女性声優の中国人気を考えれば安いものだろう。年10億円だって出すかもしれない。『原神』1作が半年で1100億円と考えればたいした額ではない。それにしても1億円、日本の声優からすればベテランだって卒倒する金額だ。
「まあ、いまのところ口だけかもしれませんが面白い話でしょう。でもね、中国のエンタメはそれくらい凄いんです。そんな中国が日本の女性アイドル声優に目をつけた。本当に中国基準のギャラを出すなら、声優はもちろん事務所だって転ぶかもしれません。実際、大っぴらには本人から宣伝したりしてませんが、いまも日本よりちょっといい程度のギャラで中国アニメやゲームに出まくってますからね。それが所属してくれたら1億、転ぶでしょう」
金を出さない日本が悪い
中国は2017年、あまりのギャラの高騰に「限薪令」という規定を設けた。これにより「ギャラは制作費の40%以内とすること」「主演のギャラは全キャスト報酬の70%以内とすること」と決められたが、当時の人気女優ジン・ティエンに支払われた額は1本13億6000万円(!)それも税引き後というから桁違いどころではない。それに比べれば超人気声優のギャラが1億円、2億円なんてどうってことない。たとえばアリババなり、ミホヨなりが声優ビジネスに乗り出したら若くして億万長者のアイドル声優が誕生するかもしれない。中国の作品で億稼ぎ、日本で1万5000円のテレビアニメに出る、そうなれば日本のテレビアニメ出演はファンサービスと趣味の範疇でしかないだろう。