内覧会で触れ合った世界中の才能
10月末に渡仏した私は、27日に作家と関係者向けのサロン・ドートンヌの内覧会に参加した。コロナ禍だけあって、入場制限は厳しく、ワクチンの接種証明や陰性証明によって取得した有効な衛生パス(パスサニテール)を提示しなくては入れない。
和服で参加したこともあってか、多くの人が「写真を」「あなたの作品はどこだ」と声をかけてくれた。作家は名札のバッジを身につけることになっているので、参加者はすぐに私のことを作家とわかってくれる。驚いたのは、他の作家たちのフランクさ。若手から巨匠まで、誰もが友達のように話しかけてくれ、気軽に写真に応じてくれた。連絡先の交換も沢山し、またひとつ世界が広がった感じだ。
そこで感じたのは、世界にはなんと多くの、溢れんばかりの才能の画家たちがいるのか、という驚きだ。誰もが皆、素晴らしい才能を持っていると思うが、その中でも歴史に名を残すことができるのは、数人いるかいないかだろう。そんな世界で生きるには、底抜けの明るさ、ポジティブさが必要なときもあるのだろう。だから皆が明るいのではないか、そんなことも感じていた。
こうした世界中の才能と触れ合うことで、あらためて日本人としてのアイデンティティをどう表現するかという、自分のオリジンも意識させられる。世界に出ることは、「自分の中の日本」を探す旅なのかもしれない。
私も、ここまでは「難病を乗り越えて画家デビュー」、「コロナ禍を幸いに名門展覧会に応募、入選」、それで満足していた面もある。でもこれからは、彼ら/彼女たちと肩を並べ、どれだけオリジナルで、時代を反映する作品を残せるのか、そこへ向けてのスタート地点にやっと立った思いだ。言ってみれば、太平洋に身一つで飛び込むようなものだが、それでも描き続けるしかない。
それは、どこまでも厳しい道だと思う。数多いる画家たちの中には、病気だけでなく、差別・貧困など、様々な問題を乗り越えてきた人が山のようにいるだろう。とはいえ、私はそういう人たちの「ワン・オブ・ゼム」になれて嬉しいという気持ちでいる。そこで勝ち抜いていこうとか、そんなことを考えたら、気が遠くなる。単に彼ら/彼女たちと共に、「大河の一滴」として、芸術の海に飛び込めた。今はそれだけで嬉しい。
今後、画家としての活動を続けていく限り、もちろん落選が続くこともあるだろう。でも関係ない。ただ「アート」という土の上に根を張り、動かないで(たまに歌も歌うが、これもアート)、コツコツと描き続けていけばいいだけだ。56年かけて、やっと私は根を張る場所を見つけられた。今はそのことに、ただ感謝している。
【プロフィール】
さかもと未明(さかもと・みめい)/1965年、横浜生まれ。1989年に漫画家デビューし、多方面で活躍するも2006年に膠原病を発症し、その後、活動を休止。一時期は余命宣告も受けたが絵画の道を志し、2017年に吉井画廊で本格的画家デビュー。2020年に『第21回 日本・フランス現代美術世界展 -サロン・ドトーヌ協賛-』で入選、2021年には『サロン・ドートンヌ2021』に入選。11月9~22日、パリの「ESPACE SORBONNE 4」ギャラリー(https://www.facebook.com/EspaceSorbonne4/)にて個展を開催。