広い視野で上下左右を捉えるような構図に
さかもと未明氏が描いた「Bateau L’avoir」
サロン・ドートンヌで入選した作品は「Bateau L’avoir」。日本語では「洗濯船」という名前で知られる、パリ・モンマルトルにあった共同アパートだ。かつてパブロ・ピカソが『アビニョンの娘たち』を描いた場所としても知られており、ピカソ以外にも、ジョルジュ・ブラック、アメデオ・モディリアーニら名だたる画家たちが活動の拠点としていた(当時のアパートは1970年に消失している)。
かつて「洗濯船」があった場所に面した広場。右側の緑のショーウィンドウの裏手に洗濯船があった
私はこのアパートがあった広場が大好きだった。この場所に冬に立つと、捻じ曲がった力強い枝ぶりの木々が頭上に広がり、空を覆うテントの骨組みのようで、凄い迫力を感じた。それをキャンパスに表現してみたいと思った。
とはいえ、空を見上げて枝だけ描いてもその場所だとは伝わらない。枝ぶりをテーマに、洗濯船前の広場だとわかるようにするには、普通のカメラでは画面に収まらない、魚眼レンズよりもっと広い視野で上下左右を捉えるような構図が必要だ。
そこで、まずは現地に行ってあらゆる方向から写真を撮影し、それを組み合わせて上下左右に広がるパノラマのモザイクを作ってみた。そこに自分の「心の目」を通して、一枚の絵に収まるよう構図を決めた。
さかもと未明氏の創作風景 (撮影/木村智)
石畳みの描き方も一考した。様々な色の石が、円を描きながら、時々差し込んだ強い紫やオレンジによって、緑色のショーウィンドウに視線が向かうようにしたかった。まさにそのショーウィンドウに続く裏手に、洗濯船はあったのだ。
しかし、色は塗り重ねると沈んでいく。欲を言えばもう少し華やかにしたかったが、タイムアップで今の彩度に落ち着いた。