ライフ

【書評】古谷経衡氏がインパールや沖縄戦の地を訪ねて再体験した過去

『敗軍の名将 インパール・沖縄・特攻』著・古谷経衡

『敗軍の名将 インパール・沖縄・特攻』著・古谷経衡

【書評】『敗軍の名将 インパール・沖縄・特攻』/古谷経衡・著/幻冬舎新書/990円
【評者】香山リカ(精神科医)

 古谷経衡氏といえば、現在、売り出し中の若手論客。「ネット右翼」「教育虐待」など、いま注目の社会問題をリアルタイムで鮮やかに分析する古谷氏が、太平洋戦争をどう語るのか。興味津々で本書を開き、「なるほど」とうなった。「最初から結論を決めつけることなく、現地を訪ね史料にあたろう」、これが古谷氏の姿勢なのだ。

 圧巻は、本書の半分以上を占めるインパール戦の分析である。古谷氏が注目したのは、牟田口司令官ではなく、上官に逆らって撤退を決意した佐藤幸徳中将とその部下。そして古谷氏は、インパールという地をその目で見るために、インドの奥地へと旅立つのである。

 ビルマ(当時)からイギリス軍の拠点インパールを3週間で攻略する、というインパール作戦は戦況が悪化する中、1944年に敢行された。しかし、結局インパールにたどり着けた兵士はひとりもないまま、約3万人が命を落としたことは多くの人が知っている。しかし、実際にその地を訪れた人は少ないだろう。古谷氏は言う。

「(評者注・インパール戦史に)登場する『表現に絶する艱難辛苦』の地が、実際に、戦後70年以上たって全くと言ってよいほど変わっておらず、つぶさに体感できた」

 灼熱、悪路、大量の蚊、そして体調不良。そういった古谷氏の経験の記述のあとに改めて記されるインパール作戦を読んでいると、あたかも自分がそこに身を置いているような感覚にとらわれる。バーチャルリアリティーなどなくても、過去は再体験可能なのだ。

 続く沖縄戦のパートも同じだ。まずその地に行く。そして五感で経験しそれを記述し、そこから歴史を振り返る。そしてそれを読む私たちもまた、歴史を過去の遺物ではなくて、目の前で繰り広げられている現実として感じ、考える。

 さらに、上層部に逆らってでも賢明な決断をした“名将”たちの物語が、本書の太い柱にもなっている。「戦記物はずいぶん読んだ」という人にこそ、ぜひ古谷氏とともに現地の空気を味わいつつ読んでもらいたい一冊だ。

※週刊ポスト2021年11月12日号

関連記事

トピックス

独走でチームを優勝へと導いた阪神・藤川球児監督(時事通信フォト)
《いきなり名将》阪神・藤川球児監督の原点をたどる ベンチで平然としているのは「喜怒哀楽を出すな」という高知商時代の教えの影響か
週刊ポスト
容疑者のアカウントでは垢抜けていく過程をコンテンツにしていた(TikTokより)
「生徒の間でも“大事件”と騒ぎに…」「メガネで地味な先生」教え子が語った大平なる美容疑者の素顔 《30歳女教師が“パパ活”で700万円詐取》
NEWSポストセブン
西岡徳馬(左)と共演した舞台『愚かな女』(西武劇場)
《没後40年》夏目雅子さんの最後の舞台で共演した西岡徳馬が語るその魅力と思い出「圧倒されたプロ意識と芝居への情熱」「生きていたら、日本を代表する大女優になっていた」
週刊ポスト
ロッテの美馬学投手(38)が今シーズン限りで現役を引退することを発表した(時事通信フォト、写真は2019年の入団会見)
《手術6回のロッテ・美馬学が引退》「素敵な景色を見せてくれた」国民的アニメの主題歌を歌った元ガールズバンド美人妻の想い
NEWSポストセブン
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
NEWSポストセブン
LUNA SEA・真矢
と元モー娘。・石黒彩(Instagramより)
《80歳になる金婚式までがんばってほしい》脳腫瘍公表のLUNA SEA・真矢へ愛妻・元モー娘。石黒彩の願い「妻へのプレゼントにウェディングドレスで銀婚式」
NEWSポストセブン
昨年10月の総裁選で石破首相と一騎打ちとなった高市早苗氏(時事通信フォト)
「高市早苗氏という“最後の切り札”を出すか、小泉進次郎氏で“延命”するか…」フィフィ氏が分析する総裁選の“ウラの争点”【石破茂首相が辞任表明】
NEWSポストセブン
万博で身につけた”天然うるし珠イヤリング“(2025年8月23日、撮影/JMPA)
《“佳子さま売れ”のなぜ?》2990円ニット、5500円イヤリング…プチプラで華やかに見せるファッションリーダーぶり
NEWSポストセブン
次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン
阪神の中野拓夢(時事通信フォト)
《阪神優勝の立役者》選手会長・中野拓夢を献身的に支える“3歳年上のインスタグラマー妻”が貫く「徹底した配慮」
NEWSポストセブン
朝比ライオさん
《マルチ2世家族の壮絶な実態》「母は姉の制服を切り刻み…」「包丁を手に『アンタを殺して私も死ぬ』と」京大合格も就職も母の“アップへの成果報告”に利用された
NEWSポストセブン
ブリトニー・スピアーズ(時事通信フォト)
《ブリトニー・スピアーズの現在》“スケ感がスゴい”レオタード姿を公開…腰をくねらせ胸元をさすって踊る様子に「誰か助けてあげられないか?」とファンが心配 
NEWSポストセブン