ライフ

藤井聡太三冠の快進撃 圧倒的なパフォーマンスで「全冠獲得」も視野に

(写真/共同通信社)

藤井聡太三冠の進撃はどこまで続くのか(写真/共同通信社)

 いよいよ竜王獲得に王手と、藤井聡太三冠の快進撃が止まらない。「現役最強」とも称される渡辺明名人は、自身にとって脅威となる若き棋士をどう見ているのか。また、「4強時代」と言われる将棋界の勢力図はこれからどう変わるのか。11月12、13日の竜王戦第4局を前に、将棋観戦記者の大川慎太郎氏が渡辺名人に胸の内を聞いた。(全4回の第1回)
【文中一部敬称略】

 * * *
 将棋界には8つのタイトルがあり、現在は4人の棋士が分け合っている。棋界最高峰の竜王に輝くのは31歳の豊島将之。名人、棋王、王将の三冠を保持するのは37歳の渡辺明だ。そして19歳の藤井聡太も王位、叡王、棋聖の三冠を誇る。王座を持つのは29歳の永瀬拓矢だ。藤井が二冠に輝いた昨年からこの4人を指して「4強」というフレーズが生まれ、現在に至る。

 だが今夏から、その勢力図に変化の兆しが見え始めているのだ。藤井聡太が本格的な侵攻を開始したのである―─。

 まだ10代の天才棋士は棋聖戦五番勝負で渡辺の挑戦を3連勝で退けて、初防衛を果たした。次の王位戦七番勝負では豊島を相手に4勝1敗でこちらも防衛に成功。また叡王戦五番勝負では挑戦者として豊島と対戦し、3勝2敗で奪取。そして現在進行中である竜王戦七番勝負では、またも豊島に挑戦中で、史上最年少の四冠なるかと注目を集めている。藤井と豊島が3つのタイトル戦を立て続けに戦っていることから、「19番勝負」とも呼ばれている。

 現在、竜王戦は第3局まで終了しており、藤井が3連勝して奪取にリーチをかけている状況だ。私は専門誌の取材で10月30、31日に行われた第3局に訪れたが、藤井の圧倒的なパフォーマンスに控室の棋士たちも沈黙しがちだった。中盤まで難解な形勢だったが藤井が底力を発揮し、最後は大差をつけてしまった。

 終局後、勝利した藤井がか細い声でインタビューに答える間、青白い顔の豊島は両手を腿の上に揃えてうつむいていた。3連敗で背水となった豊島はこのシリーズに敗れれば無冠になり、「4強」から脱落する。同時に藤井は四冠となり、タイトルの半分を手中に収めるのだ。1996年に羽生善治が将棋界の全タイトルを制覇して七冠に輝いたが(当時は叡王のタイトルがなかった)、それ以来の全冠獲得が視野に入ってくる。

 それはつまり、渡辺の持つ3つのタイトルを奪いに来るということだ。制度上、藤井が名人戦に出場できるのは最短で再来年だが、年明けの王将戦で相まみえる可能性は十分にある。渡辺は、藤井の進撃をどのように見ているのか。次のタイトル戦ではどういう方針で臨むのか。そして自身のキャリアをどう考えているのか。名人にたっぷりと話を聞いた。

(第2回につづく)

【プロフィール】
大川慎太郎/1976年生まれ。将棋観戦記者。出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に『証言 羽生世代』(講談社現代新書)などがある。

※週刊ポスト2021年11月19・26日号

関連記事

トピックス

WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン
高校時代には映画誌のを毎月愛読していたという菊川怜
【15年ぶりに映画主演の菊川怜】三児の子育てと芸能活動の両立に「大人になると弱音を吐く場所がないですよね」と心境吐露 菊川流「自分を励ます方法」明かす
週刊ポスト
ツキノワグマは「人間を恐がる」と言われてきたが……(写真提供/イメージマート)
《全国で被害多発》”臆病だった”ツキノワグマが変わった 出没する地域の住民「こっちを食いたそうにみてたな、獲物って目で見んだ」
NEWSポストセブン
2020年に引退した元プロレスラーの中西学さん
《病気とかじゃないですよ》現役当時から体重45キロ減、中西学さんが明かした激ヤセの理由「今も痺れるときはあります」頚椎損傷の大ケガから14年の後悔
NEWSポストセブン
政界の”オシャレ番長”・麻生太郎氏(時事通信フォト)
「曲がった口角に合わせてネクタイもずらす」政界のおしゃれ番長・麻生太郎のファッションに隠された“知られざる工夫” 《米紙では“ギャングスタイル”とも》
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン
東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
将棋界で「中年の星」と呼ばれた棋士・青野照市九段
「その日一日負けが込んでも、最後の一局は必ず勝て」将棋の世界で50年生きた“中年の星”青野照市九段が語る「負け続けない人の思考法」
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン