仲間と一緒にどこまで遠くへ行けるか
朝倉未来には〈50対2〉という伝説の喧嘩がある。もちろん2が朝倉陣営だ。どうしてこんなにバランスが悪いのかというと、敵の数の多さに怖じ気づいた仲間がみんな逃げてしまったからだという。朝倉がいくら喧嘩に強いと言っても、さすがにこれでは多勢に無勢だ。この時はめちゃくちゃにボコられたらしい。
しかし、2という数字が示すとおり、一人だけ逃げなかった友人がいた。そして彼はいまでも朝倉未来チームのスタッフとなっている。まあ、これはわかる。僕が面白いと感じるのは、恐れをなして逃げた友人もチームの一員となっていることだ。僕は、ここに不良ならではの包摂力を見る。
朝倉は地元にこだわる。そして仲間にこだわる。プロ選手になってから、地元に帰って、不良を相手にスパーリングをするのは、たんにYouTubeのアクセス数を稼げるからだとは思えない。朝倉は地元が好きで、そこで「あー、なんかむしゃくしゃする。暴れてー」と思っている不良をどこかでみんな仲間だと思っているのではないか。
と同時に、朝倉未来は世界を目指してもいる。総合格闘技で世界の頂点に君臨するのはUFCというアメリカの団体である。朝倉もUFCを意識した発言をしばしばしている。遠くに行こうとしているわけである。と同時に仲間や地元にこだわる。つまり、朝倉未来は、〈地元・仲間&東京・仲間・成功&世界〉という、古さを内包した新しい不良の物語を紡ごうとしているように見える。
先に、総合格闘技は不良の喧嘩ではなくアスリートによる近代スポーツだ、という意見を紹介した。近代スポーツでは、スタッフ編成が重要となる。ここでまた仲間の問題が出てくる。例えばロックなどでは、目指すレベルが高度になってくると、地元で一緒にバンドを組んでいた連中にはもうバックをまかせられないという状況が生じることがある。
似たような局面は、格闘技では試合のセコンドなどに現れる。もはやチームで戦うスポーツだと言われる総合格闘技はセコンドからの指示が重要だという意見が日増しに強くなっている。朝倉未来は自分の日々のトレーニングには一流のコーチを雇っているが、試合でセコンドにつくのは、やはり総合格闘家になった弟の朝倉海をはじめとする仲間である。仲間と一緒にどこまで遠くへいけるか、それが朝倉未来の物語なのだ。