喧嘩の相手までも仲間に

 もうひとつ、仲間というのは、誰が仲間で誰が仲間でないのかという“範囲の問題”がつきまとう。朝倉未来は敵前逃亡した者を仲間に入れた。そしていま、喧嘩の相手までも仲間に入れようとしている。

 今年の6月13日、朝倉未来はクレベル・コイケに、失神KOという壮絶な負けを喫した。そして勝利したクレベル・コイケは、フェザー級の強豪としての地位を確立した。ただ、この在日ブラジル人の格闘家はかなり鼻っ柱が強いらしく(ファイトスタイルにも少々素行の悪さが垣間見える)、あることでRIZIN運営会社ドリームファクトリーワールドワイドの榊原信行社長の逆鱗に触れてしまった。

 クレベル・コイケはブラジルから来た出稼ぎ労働者だった。朝倉未来に勝利を収め、これから本格的に成り上がろうとしていたさなかに、ひょっとしたらホサれるかもしれない、という状況に暗転したのである(完全に解決したという話は聞かないからまだこの確執は継続中なのかもしれない)。そのいきさつは割愛するが、怒った榊原社長はいちどは「あなた(クレベル)中心にRIZINは回ってない」とまで言って怒りを露わにした。

 では、誰を中心に回っているのか。朝倉未来を中心に回っているのである。そして、その朝倉未来は、要所要所で、「頭ひとつ抜けているのはクレベルだ」などとクレベル・コイケに言及し、榊原社長に「未来がどうしても戦いたいならクレベル呼ぶけど」と言わせて(自身のYouTubeで朝倉未来がそう証言した)、クレベルを救済しているように僕には見える。

 この古くて新しい不良の物語にぜひ注目して欲しい。

【プロフィール】榎本憲男(えのもと・のりお)/1959年和歌山県生まれ。映画会社に勤務後、2010年退社。2011年『見えないほどの遠くの空を』で小説家デビュー。2015年『エアー2・0』を発表し、注目を集める。2018年異色の警察小説『巡査長 真行寺弘道』を刊行。シリーズ化されて、「ブルーロータス」「ワルキューレ」「エージェント」「インフォデミック」と続く。『DASPA 吉良大介』シリーズも注目を集めている。近刊に『相棒はJK』、2022年1月に真行寺シリーズのスピンオフ作品『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』を刊行予定。

  

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