今回出品の申し出があった「Caressant un reve(夢を灯す)」
「百恵さんの作品には常に、誰かへの思いが込められているんです。彼女にとってキルトは自分の思いを綴る日記のようなものなのでしょう」(百恵さんの知人)
還暦を迎えた2019年には『時間の花束』と題し、作品に込めた思いも文章にして添えた作品集を出版し、20万部を超えるベストセラーとなった。引退後の百恵さんの近況を知る貴重な機会にもなっていたキルトの展示会。今年は新作を発表しなかったが、過去の作品を出品したことにこそ、いまの彼女の思いが表れているという。
「過去の作品でよければ出品させてください」
実はいま、キルトはひそかに存亡の危機を迎えているという。
「キルトを始めようという若い人がなかなかいなくて、高齢化が進んでいるんです。地方では活動の継続が難しくなり、幕を閉じたサークルや同好会も少なくありません」(手芸関係者)
今年11月1日には、20才からキルトに親しんでいるタレントのキャシー中島(69才)が「日本キルト協会」を設立し、代表理事を務めることを発表。会見で中島は「日本のキルト文化がフェードアウトしてしまうのではないかという危機感があった」と語っている。百恵さんが師事するキルト作家・鷲沢玲子さんも前出の百恵さんの著書『時間の花束』に登場し、こう綴っている。
《昨今、パッチワークキルトに興味を持ってくれる若い世代が減っている事実は否定できず、一抹の寂しさを覚えます》
ある手芸イベント関係者が明かす。
「実は百恵さんは今回、出品しない予定でした。でも、直前になって無理を押して作品出展を決めたようです。本来なら新作を出すというのがモチベーションでもありますが、今回はキルトの未来のため、友のためという強い思いがあったと思います。自分が出品することで来場者に少しでもキルトの魅力を伝えられるなら……と、自分から“過去の作品で出させてください”と申し出られたそうです」
百恵さんが無理を押してもキルト展へ出品しようと決めた理由、そこには30年来になる友人たちの存在があった。
「芸能界を完全に引退した後も、百恵さんは何かにつけて大きな注目を集めてしまう存在でした。周囲の人とも普通のおつきあいができず、孤独を感じていただろうと思います。そんな彼女を“スター”ではなく、普通の“一般人”へと導いてくれたのが、キルトでした。仲間たちと一緒に教室で学ぶなかで、周囲も普通の友達として彼女に接しました。それは百恵さんにとって、とても貴重なことだったと思いますよ」(前出・百恵さんの知人)
キルトを通じて友人たちと一緒にご飯に行ったり、カラオケをしたり、百恵さんの日常は大きく変わっていった。