どんながんであっても、最期はほかの臓器や組織に転移して原発巣以外にも体のあちこちに痛みや不快な症状が表れてくる。ただし、医学の進歩に伴い、現在ではほとんどの場合、緩和ケアでコントロールしながら亡くなる1か月前まで日常生活を送ることができる。
「亡くなる兆候が出始めるのは、1か月ほど前であることが多いです。全身の倦怠感や食欲不振、便秘、不眠、呼吸困難、吐き気など、さまざまな症状が複合して表れます。2週間が経過すると、これらの不調がさらに悪化する。気道に分泌物や痰がたまりやすくなり、呼吸をすると喉がゼーゼー、ヒューヒューと鳴る人もいます」(岡本さん)
20年以上在宅で多くの患者を看取ってきた長尾さんは、がんは最期の10日間が大事だと話す。
「どの患者さんも最期の10日間までは比較的元気に過ごされる人が多い。ご飯も通常通り食べ、外に出ることもできる。ですが亡くなる10日前になると食欲が急激に落ち、そこから一気に状態が悪くなっていきます」
亡くなる数日前になると、意識レベルが低下して血圧も下がり、次第に体が冷たくなってくるといわれるが、長尾さんの経験では在宅の患者は、ピンピンコロリ型で安らかに亡くなる人も多いという。
「がん患者というと、最期は苦しむのではないか、と心配するご家族が多いですが、実際はそうとは言い切れない。例えば肺がんだった70代の患者さんは、亡くなる直前までたばこを吸いながら話をしていて、火がついたまま亡くなりました。80代の肝臓がんの患者さんも、前日に診察に行くとビールを飲みながら大好きなプロ野球観戦をしていて、翌朝に亡くなった。
意外かもしれませんが、がん患者の場合は、入院から在宅に切り替えた後、亡くなるまでの期間は多くの人が想像しているよりも短い。末期がんの平均在宅期間は1.5か月です。亡くなる数日前までは自力でトイレに行けるし、量は少なくてもご飯を食べられたりします。
特に高齢者の場合、直前まで元気に過ごされるケースが多い。若い人は痛みが強いことが多く、鎮痛剤を使いながらコントロールします。また、こうした安らかな最期を迎える人に共通しているのは、薬や点滴を使いすぎないこと。自然の状態を受け入れることが大切です」(長尾さん)