テスラを率いるイーロン・マスクCEO
EV技術には、電動車でもあるハイブリッド車(HEV)から転用できるものが多い。このため、HEVで最強を誇るトヨタはEVに関しての特許保有数は世界1位だと言われている。人材や資金力といったトヨタが保有する経営リソースを投入すれば、EVを造ることなぞ朝飯前だろう。
すでにトヨタの生産現場も開発現場も、EVシフトに向けて動いていた。たとえば、2020年1月にはトヨタ最大の国内エンジン生産拠点である下山工場(愛知県豊田市)の製造ラインを2本から1本に削減したほか、その前年にはエンジン車には付き物の燃料噴射装置の事業は、トヨタと系列のデンソー、愛三工業の3社にまたがっていたのを愛三に集約する計画を打ち出していた。
さらにエンジン車には欠かせないプロペラシャフトなどの鍛造品を造る三好工場(愛知県みよし市)を、同じようなものを生産している系列のジェイテクトに売却しようと動いていた。しかし、この計画は事前に漏れて社員の反発にあい、労務問題に発展する動きが出ていたために取りやめたが、このように水面下では来るべきEV時代に備えて生産体制の変更に着実に取り組んでいたのだ。
また、EVシフトの核心の一つは「クルマのスマホ化」にある。この点でもトヨタはすでに手を打っている。
EVで先行するテスラのクルマは、車体そのものは古くなっても、自動車内部のソフトウエアは無線技術によって常に更新され、最新技術がダウンロードできるようになっている。これはスマートフォンが、OSをアップデートすれば、新しい機能やサービスが使えるようになるのと同じことだ。この技術を「Firmware update over the air」と呼び、自動車業界ではその頭文字を取ってFOTAやOTAと呼ばれている。
この数年以内に、米アップルが自動車産業に殴り込みをかけてくると言われているが、いわゆる「アップルカー」の強みの一つが自社のiPhoneで培ったOSをアップデートするノウハウをクルマにも転用してくることだろう。「スマホ化」とは、一言でいえば、クルマが今まで以上にソフトウエアのカタマリになって、それを巧みに制御できるかどうかがクルマの性能や使い勝手を左右する流れが加速するということだ。
私財から「50億円」を投資
トヨタは社内にOTA推進室を設置したほか、社内の開発体制を大きく変更しようとしている。今のトヨタには車種のカテゴリーごとにチーフエンジニアがいて、ソフトもハードも車種ごとに同時並行で開発しているが、それを改め、ソフトとハードの開発を分離し、ソフトウエアを先行開発し、後から開発する車体に流し込む手法に変えようとしている。この開発手法により、OTAの時代に対応しようとしているのだ。
トヨタの新しい開発手法は「アリーン」と呼ばれ、その開発を担当するのが、子会社のウーブン・プラネット・ホールディングス(旧TRI-AD)である。そこには、豊田社長の長男、大輔氏がシニアバイスプレジデントとして勤務している。