豊田章男社長(左)と同じくレーサーとしても活動する長男の大輔氏(右)

豊田章男社長(左)と同じくレーサーとしても活動する長男の大輔氏(右)

 実は豊田社長は、この子会社に私財50億円を投資している。トヨタが重要なビジネスと位置付けているからこそ、トップ自らが身ゼニを切り、創業家の御曹司を配置していると見ることができる。将来的にはこのウーブン・プラネットが、エンジン車からEVへという100年に一度の産業革命後、「新トヨタ」となる可能性すらあると私は見ている。もちろん、私財の投入が利益相反だと指摘されるリスクを覚悟の上での行為ではある。

 ことほどさようにトヨタは周到にEVシフトに備えながらも、EVの商品化には後ろ向きだ。数字がそれを物語っている。2020年の世界販売に占めるEVと、EVとHEVが融合したプラグインハイブリッド車(PHV)は約5万5000台で、世界17位だ。トヨタと常に世界トップの座を競っている独フォルクスワーゲンは約22万台売っている(世界第2位)。

 トヨタというトップ企業がEVの商品化に後ろ向きであることが影響して、2020年の日本の国内市場におけるEV(PHV含む)の販売台数は約3万台に過ぎない。同じ自動車大国であるドイツでは前年比3.6倍の39万台売れたのとは大違いだ。トヨタが商品化で出遅れている原因ははっきりしている。豊田氏の存在そのものが「抵抗勢力」となっていたからだ。

 これまで豊田氏は「EV嫌い」を表明してきた。日本自動車工業会の会長として、つまり、業界トップとして「自動車業界で働く550万人のために」を謳い文句に、「EVシフトを進めれば、日本の屋台骨の自動車産業が崩壊する」といった趣旨の発言を繰り返してきた。

 発言の意味するところは、就業人口が全体の8%を占める部品メーカー、整備工場、ガソリンスタンドなどで働いて生計を立てている550万人の人々が、EVシフトでメシが食えなくなってしまう、ということだ。

 日本自動車工業会の会長は通常、一期二年。豊田氏はすでに二期四年つとめたうえに、トヨタ→ホンダ→日産の“輪番制”の会長職をホンダに譲らずに三期目、つまり五年目に突入することが決まった。そこまで身体を張って豊田氏は「エンジン車からEVになってもカーボンニュートラルは実現しない。そんな欺瞞的な世界の潮流を阻みEV化の動きを少しでも止めてみせます」という構えを崩さなかった。

100年ぶりに起きた「産業革命」

 しかし「自動車業界の救世主」は、ここにきて一転、大胆なEV化を推し進める剛腕の経営者に豹変したのである。ヘタな芝居をやめて、本音をむき出しにしたともいえるのかもしれない。たしかにEVシフトすれば、部品点数が減り、不要になる部品も出てきて、自動車産業にこれまでのような雇用吸収力が失われる可能性は高い。いや、そうなるだろう。

 EVシフトは、21世紀の産業革命である。かつての産業革命では人力が蒸気機関に置き換わった。19世紀初頭、イギリスでは機械の導入によって繊維関係の職人の仕事が奪われ、機械を破壊する「ラッダイト運動」が起こった。さらにその後、蒸気機関は内燃機関に置き換わったことで、移動の主役は、馬車から機関車だったのが、さらに機関車からクルマに交代した。このプロセスにおいては、「ラッダイト運動」のように職を失うことによる反発もあったろう。

 しかし、新たな産業が生まれたことで、逆にそこで職を得て、それが社会を豊かにしていく一因になったことも事実である。そして立派な自動車を造れる国が世界で一流の経済国となった。日本もしかりだ。20世紀は、自動車が産業の盟主となったのである。と同時に、内燃機関に欠かせない石油産業が勃興し、石油の争奪戦が、国家の命運を握り、石油(エネルギー)を制する者が世界の覇権を握った。

 しかし、現在、そうした産業構造に100年ぶりに変革の波が及び、動力源の主役が内燃機関から電気モーターに替わろうとしている。新たな産業革命が進んでいるのである。産業界で大きな変化が起これば、衰退する業界と勃興する業界が出てくるのは必然の流れだ。

関連記事

トピックス

男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”女子ゴルフ選手を待ち受ける「罰金地獄」…「4人目」への波及も噂され周囲がハラハラ
週刊ポスト
外国の方にも皇室や日本を知ってもらいたい思いがある雅子さま(2025年2月、東京・台東区。撮影/JMPA)
皇居東御苑の外国人入園者が急増、宮内庁は外国語が堪能なスタッフを募集 雅子さまの「外国の方にも皇室や日本を知ってもらいたい」という強い思いを叶える秘策
女性セブン
大谷翔平の第一号に米メディアが“疑惑の目”(時事通信、右はホームランボールをゲットした少年)
「普通にホームランだと思った」大谷翔平“疑惑の第1号”で記念ボールゲットの親子が語った「ビデオ判定時のスタンドの雰囲気」
NEWSポストセブン
水原一平(左、Aflo)と「親友」デビッド・フレッチャー(右、時事通信)
《大谷翔平のチームメイトに誘われて…》水原一平・元通訳が“ギャンブルに堕ちた瞬間”、エンゼルス時代の親友がアップした「チャリティー・ポーカー」投稿
NEWSポストセブン
岡田准一と西畠清順さん(2025年2月)
岡田准一、大親友「プラントハンター」との決起会をキャッチ 共通点は“無茶をしてでも結果を出すべき”という価値観
女性セブン
滞在は2週間の予定だという
《佳子さまが6月にブラジルを公式訪問》背景にあった秋篠宮家と現地の深い縁「2018年には眞子さんが訪問」
週刊ポスト
「ナスD」として人気を博したが…
《俺って、会社でデスクワークするのが苦手なんだよね》テレビ朝日「ナスD」が懲戒処分、517万円を不正受領 パワハラも…「彼にとって若い頃に経験したごく普通のことだったのかも」
NEWSポストセブン
トレードマークの金髪は現在グレーヘアに(Facebookより)
《バラエティ出演が激減の假屋崎省吾さん“グレーヘア化”の現在》中居正広氏『金スマ』終了を惜しむカーリー「金髪ロング」からの変貌
NEWSポストセブン
姉妹のような関係だった2人
小泉今日子、中山美穂さんのお別れ会でどんな言葉を贈るのか アイドルの先輩後輩として姉妹のようだった2人、若い頃は互いの家を行き来し泥酔するまで飲み明かしたことも
女性セブン
彼の一世一代の晴れ舞台が近づいている
尾上菊之助「菊五郎」襲名披露公演配役で波紋、“盟友”尾上松緑を外して尾上松也を抜擢 背景に“菊之助と松緑の関係性”を指摘する声も「最近では口もきかない」
女性セブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”の女子プロゴルフ・川崎春花、阿部未悠、小林夢果を襲う「決勝ラウンド3人同組で修羅場中継」の可能性
週刊ポスト
都内の高級住宅街に大きなあ戸建を建設中の浅野温子
浅野温子、都内高級住宅街に二世帯住宅を建設中 資産価値は推定5億円、NHK元アナウンサーの息子一家との同居で始まる“孫育て”の日々
女性セブン