車を手放すことで高齢者が家にこもりがちになり、うつ傾向が出たり、認知症を患うリスクもある。そうならないためには、運転以外の楽しみを見つけてもらう手助けも必要になってくる。
「生活の変化というのは、誰もが不安に感じるものです。高齢者に免許返納してもらうためには、少しでも不安が減らせるように、周囲が事前にいろいろリサーチして作戦を練らないといけません」
志堂寺教授いわく、高齢ドライバーの特徴とは「個人差が非常に大きいこと」だ。
「加齢による影響というのは個人差が大きく、80歳でも若い頃とそう変わらず運転できる人もいれば、60代の時点でかなり怪しい人もいる。だから、個人的には『○歳になったら強制的に免許返納』と年齢で一概に区切ってしまうのは問題があると感じます。また、運転する場所というのもポイントです。地方の人通りが少ない道しか運転しないのであれば、都会よりは事故のリスクは少なく済みます」
加齢による影響の出方、運転するエリアと、それぞれの条件が大きく異なるため、まずは「本当に運転を止めるべき状態か?」を冷静にチェックしないといけない。そのために有効なのが“同乗観察”だ。高齢者が運転する車に一緒に乗って、「全く問題なし」、「昔よりは運転が下手になったかもしれないけど、これくらいなら大丈夫」、「すぐに手放したほうがいい」の、どの状態にあるのか確認するのだ。
「これくらいなら大丈夫」である場合も、“補償運転”の考え方を取り入れてもらえば、さらに安全性は高まる。補償運転とは、運転する時間や場所、自身の体調などを鑑みて、運転機能の低下を補う安全運転のテクニックのことだ。夜道や雨の日、長時間の運転など、苦手なシチュエーションを把握し、自信を持って運転できる状況の中でだけ運転してもらう。
「補償運転については、『どんな場面で運転に不安を感じるか?』をドライバー本人に考えてもらってもいいですし、周囲との会話を通して考えを整理してもらうのもいいでしょう。
なんにせよ、高齢ドライバーに免許返納をしてもらう上で最も大切なのは“普段の関係性”です。日ごろ全然連絡をしないくせに、実家に帰ってくるなり頭ごなしに自主返納の話……なんていうのは、相手もカチンときてしまいます。ですが、普段から親しく接してくれている家族に『事故を起こさないか心配なんだ』と真摯に伝えられたら、素直に聞いてみる気持ちになりますよね」
理詰めでリスクを説明するよりも、「あなたが心配だ」という素直な愛情を伝えることが、高齢ドライバーの心を動かすようだ。
◆取材・文/原田イチボ(HEW)