ライフ

【書評】2年前の予想をはるかに超えて悪化した香港の「恐怖」

『香港危機の真相 「逃亡犯条例」改正問題と「一国二制度」のゆくえ』編・倉田徹、倉田明子

『香港危機の真相 「逃亡犯条例」改正問題と「一国二制度」のゆくえ』編・倉田徹、倉田明子

【書評】『香港危機の真相 「逃亡犯条例」改正問題と「一国二制度」のゆくえ』/倉田徹、倉田明子・編/東京外国語大学出版会/1760円
【評者】月村了衛(小説家)

 奥付によると本書の刊行は2019年12月だ。およそ二年前の本であり、刊行時の情報に基づき政治・法律・経済など関連分野の研究者、ジャーナリストらによって執筆された。香港の置かれた状況を、文化的・歴史的見地からも詳細に分析してくれている。

 だが決して最新の書物とは言えない本書をあえて採り上げたのは、この二年間での香港の激変ぶりとその経緯を知るにはかえって最適ではないかと考えたからである。

 本書の中で執筆者達は現状に対する危機感を極めて率直且つ冷静に表明している。日本でも著名な民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏はインタビューに応じSNSでの発信による前向きな希望と日本への連帯を呼びかけている。そして二年後の現在、香港はどうなってしまったか。

 執筆者達の予測をはるかに超えて状況は悪化した。2020年6月の香港国家安全維持法成立である。周庭氏は逮捕され、投獄された。現在は釈放されているが、かつてのようなひたむきで覇気に満ちた活動は、少なくとも我々の耳には伝わってこなくなった。

「民主はないが自由はある」。それが以前からの香港政治の特徴であったという。しかしその自由さえも香港から失われてしまった。民主活動家のみならず、多くの報道人、研究者、文化人、一般市民の逮捕がそれを証明している。中国の覇権主義が香港の伝統を破壊し、言論の自由を奪い去ったのだ。

〈学生運動、法輪功、ウイグル族に対する、後の中国政府による「仕返し」が、香港で繰り返されることをふせぐためには、世界が香港を見つめ続けることが必要だから(後略)〉―本書の前書きはそんな一文で締め括られている。皮肉にもその願いは届かなかった。いや、まったく間に合わなかったのだ。今改めて本書を繙くことによって、香港の変化とそのことの恐怖を、より切迫感を伴って感じ取れるのではないだろうか。

 そしてそれは、決して他人事ではないはずだ。

※週刊ポスト2022年1月1・7日号

関連記事

トピックス

和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン