高齢者が男女問わず介護脱毛に踏み切るようになり、見た目を気にして脱毛をしたいと親にせがむ小学生が増えているといういま、脱毛は老若男女問わず、一種のエチケットとなろうとしている。そんななか、「クリニックだから安心」という信頼の気持ちを踏みにじるような行為が多発している──。
「これって本物のソプラノチタニウム(脱毛機)ではないですよね」
「(一瞬黙って、間をおいてから)これは、ウチのオリジナル機械でして」
「え……(絶句)」
「あの……返金するので、ツイッターなどで書いたり、他言しないでください」
これは、昨年12月に都内の某有名美容クリニックを訪れた渡辺美紀さん(仮名)と看護師のやり取りだ。
「ソプラノチタニウム」は、FDA(アメリカ食品医薬品局)が認可しているもので、施術時間も短く、痛みも少ないことから日本でも数年前から全国的に取り扱いが増えている脱毛専用マシンだ。
数か月にわたり、脱毛の施術を受けていたが、目に見える効果が得られなかった渡辺さんは、とある事情からクリニックで使用されている医療レーザー脱毛機が偽物なのではとの疑念を抱いた。
そこでクリニックの看護師に問いただしたところ、冒頭のように返金と口止めを提案されたのだ。
彼女が通ったのは、都内の一等地や、関西圏にも多くの店舗を持ち、院長自身も宣伝を行っている、一見すると信頼できそうなクリニックだった──。
新型コロナウイルスの流行開始から2年、多くの業種が経営難に苦しむなか、休業要請の対象から外れた美容クリニックは客足が絶えなかった。
その一方で、トラブルも増え始めているという。
「私の場合は、かつて医療関係の仕事に就いていて美容クリニックに勤務経験のある看護師の知り合いから、医療レーザー脱毛機に偽物があることを聞いて、SNSなどで情報を集めるようになったんです」
そう語る渡辺さんは、この出来事をきっかけにして、昨夏「美容潜入ナース」というツイッターアカウントを開設し、看護師仲間や偽物マシンの被害者とチームを組んで美容クリニックの実態調査を開始。
自らも患者としてクリニックを訪れ、着替えをする間に看護師が部屋を離れたタイミングで、機械を確認するなどの“潜入調査”を繰り返し、その内容を公表している。医療関係の知識が豊富な彼女の解説はわかりやすく、多くのフォロワーを獲得。やがて施術効果に疑問を抱いていた女性たちから多くの情報が寄せられるようになった。