悩み苦しむ胸中を明かす上村監督(筆者撮影)

悩み苦しむ胸中を明かす上村監督(筆者撮影)

大垣日大の選手たちに非は全くない

 君たちは個人の力量で負けた──。
 君たちは投手力で劣る──。
 君たちは甲子園で勝つ力がない──。

 鬼嶋氏が挙げた落選に至ったこの3つの理由を、上村監督自身の口から選手に伝えることなどどうしてできようか。

「大垣日大より聖隷クリストファーの方が優れているとは言いませんし、大垣日大の選手たちに非はまったくありません。同じベスト4だったなら、この選考結果はわれわれも納得がいく。でも聖隷クリストファーは準優勝しているわけです。100%出場できると思っていた選手にとって、その100%を失えばどれほどの傷を負うことになるのか、想像してみてください。選手はやりきれません」

 学校のある浜松市の出身である上村監督は、浜松商業の選手として1975年夏の甲子園に出場した経験を持つ。その後、早稲田大学に進学し、卒業後は静岡県の公立校教師として採用され、これまで母校の浜松商業、掛川西であわせて春5度、夏3度の甲子園出場経験がある。浜松商業を率いた1986年のセンバツでは、あのPL学園(大阪)にも勝利した。

「池田(徳島)にも勝ち、拓大紅陵(千葉)にも勝つことができました。13年前に掛川西でセンバツに出た時は、前年秋の東海大会2回戦で大垣日大と対戦し、9回1アウトまで負けていたんですけど、逆転サヨナラホームランで勝ったんです。享栄にも勝利し、最後は中京大中京に負けたとはいえ、センバツ切符を手にできました。私が率いて甲子園に出場した学校は、いつも戦前の評価でCランクの学校ばかりです」

 聖隷クリストファーから話があったのは、静岡県立磐田北高校に勤務していた59歳の時だった。

「『定年後でもいいから』というお誘いでしたが、59歳にして私は歯肉ガンという大病を患った。闘病する上ではいろいろな覚悟が必要だった。病状が快復すると、もう一度、高校野球に携わりたくなり、定年を前に聖隷クリストファーに来たんです」

 選手時代も含め、長く携わってきた高校野球に対する最後のご奉公のつもりだった。

「掛川西で甲子園に出場したあと、私は県の総合教育センターに勤務していた時期もあります。総合教育センターでは、生徒指導支援班という部署にいました。生徒指導というのは、生徒がここ一番の勝負所で力を発揮できるように、そして夢に向かって自己実現が果たせるように導くことだと思っています。それを見事に実現してくれたのがこのチームだった。センバツ出場が決まれば、高校野球にご奉公できたと思えたのですが……」

 上村監督にとって今回の落選は、教育者としての姿勢を全否定されたようなものだった。

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