ライフ

名物書店員・新井見枝香さん「ステージIVのママ」から学んだ「闘病中の人との向き合い方」

書店員の新井見枝香さんが話題の本『ママがもうこの世界にいなくても』について語る

書店員の新井見枝香さんが話題の本『ママがもうこの世界にいなくても』について語る

 21才で大腸がんステージIVの宣告を受け、22才で結婚、23才で娘を出産。2021年9月、闘病の末に24才で亡くなった遠藤和(のどか)さんが1才の娘のために綴った日記をまとめた『ママがもうこの世界にいなくても』。書店員の新井見枝香さん(41才)が思い起こしたのは、知人の闘病の記憶だった。

 * * *
 夫の遠藤将一さん、若いのにすごく立派ですね。好きな女の子が苦しんでいる姿を見ているのはつらかったと思います。でも、彼は「絶対治るよ」と言い続けた。絶対泣いたらいけないと思って過ごしていた。よっぽど気持ちが強い人なのだと思いました。私は「絶対治るよ」と言う役割に徹することまではできても、さすがに涙を我慢することはできないと思います。

 読んでいて、私自身の近しい人ががんの闘病をしていたときのことを思い出しました。当時、私は将一さんと同じくらいの年齢でしたが、恐怖に圧倒されていたことばかりを覚えています。抗がん剤治療の副作用で吐き気を催している姿や、日に日にやつれていく姿……「世の中にはこんなにもどうにもならないことがある」という現実が、本当に怖くて、恐ろしくて、逃げ腰だったように思います。

 和さんの日記のおかげで、当時はわからなかった、がんと闘う人との向き合い方が少しわかったような気がします。 例えば、抗がん剤治療を「もうやめちゃいたい」「死んじゃいたい」と思ったり、「やっぱり頑張ろう」「娘ちゃんに会いたい」と思ったりする場面。私の知人も、会う日ごとに前向きだったり、ネガティブだったりしました。状況は変わっていないけれど、日によって、気の持ちようが猫の目のように変わっていた。でも、どちらかが噓なのではなく、どちらも本当の気持ちなんですよね。 考えてみたら、それってがんの患者さんに限ったことではなくて。体調が悪いと、なにもかも嫌に見えることって、誰にでもたしかにあります。私は少し頭が痛いだけで、気持ちが後ろ向きになり、いろんなことがどんどんダメになっていきますし。がんだから特別、というわけではなく、自分にもあることだと思えたら、接し方も少し変わっていたのかなと思いました。

 何年も連絡を取っていなかった友達から唐突にLINEがきたことに対して「死ぬ前に会っておかなきゃとか思ったんでしょ」と感じたと、和さんは書き遺しています。ハッと考えさせられました。私も和さんと似ているタイプかもしれない。自分が弱っているとき、近づいてくる周囲からの哀れみの視線や、不自然な励ましって、その人にとっては心配でいてもたってもいられないのかもしれないけれど、”気持ち悪い”と感じてしまいます。私自身がそういう考え方だから、知人の体調が芳しくないことを耳にしたとしても、心の中では心配だけど、きっと連絡できないと思う。いままで全然音沙汰なかったのに、急に「元気?」って聞くのって変じゃないですか? あえてアクションを起こすことには躊躇してしまいます。

関連記事

トピックス

中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
愛子さま、初の単独公務は『源氏物語』の特別展 「造詣が深く鋭い質問もありドキっとしました」と担当者も驚き
愛子さま、初の単独公務は『源氏物語』の特別展 「造詣が深く鋭い質問もありドキっとしました」と担当者も驚き
女性セブン
“くわまん”こと桑野信義さん
《大腸がん闘病の桑野信義》「なんでケツの穴を他人に診せなきゃいけないんだ!」戻れぬ3年前の後悔「もっと生きたい」
NEWSポストセブン
中森明菜
中森明菜、6年半の沈黙を破るファンイベントは「1公演7万8430円」 会場として有力視されるジャズクラブは近藤真彦と因縁
女性セブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
報道陣の問いかけには無言を貫いた水原被告(時事通信フォト)
《2021年に悪事が集中》水原一平「大谷翔平が大幅昇給したタイミングで“闇堕ち”」の新疑惑 エンゼルス入団当初から狙っていた「相棒のドル箱口座」
NEWSポストセブン
昨年9月にはマスクを外した素顔を公開
【恩讐を越えて…】KEIKO、裏切りを重ねた元夫・小室哲哉にラジオで突然の“ラブコール” globe再始動に膨らむ期待
女性セブン
稽古まわし姿で土俵に上がる宮城野親方(時事通信フォト)
尾車親方の“電撃退職”で“元横綱・白鵬”宮城野親方の早期復帰が浮上 稽古まわし姿で土俵に立ち続けるその心中は
週刊ポスト
大谷翔平の妻・真美子さんの役目とは
《大谷翔平の巨額通帳管理》重大任務が託されるのは真美子夫人か 日本人メジャーリーガーでは“妻が管理”のケースが多数
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
殺人未遂の現行犯で逮捕された和久井学容疑者
【新宿タワマン刺殺】ストーカー・和久井学容疑者は 25歳被害女性の「ライブ配信」を監視していたのか
週刊ポスト