ライフ

【新刊】仮想現実VS現実世界の二項対立で語る『メタバースとは何か』など4冊

book

メタバースで夢見た浦島太郎。リアルに帰還しなければ良かったのに(本文より)

 まだまだ寒いこの季節。暖かい部屋の中で読書を楽しむのはいかがでしょうか。注目の新刊4冊を紹介します。

『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」』
岡嶋裕史/光文社新書/902円

 戦略なのだろうが、おたくな部分を思いっきり拡張した文章に笑う。ゲームに不案内な者としては、メタバースってこういうことなのかと視界が開ける。メタバース(仮想現実)vs.ユニバース(現実世界)と二項対立で語られる近未来。上級国民はリアルでもいいだろうが、救われない層が不快や摩擦を避けてメタバースで憩うことは充分理解できる。GAFAMの動向に注目だ。

 

book

80代の鈴さんが美しいのは髪も肌も「自然の色」だから(岡田の発見)

『ミス・サンシャイン』
吉田修一/文藝春秋/1760円

 1950年代カンヌで女優賞をとり、ハリウッドにも進出した伝説の女優和楽京子(本名・石田鈴)。院生の岡田一心は映画演劇史の教授に紹介されて彼女の下で資料整理のバイトを始める。彼女の記憶が語る映画産業の勃興と斜陽、原爆投下国が自分を「ミス・サンシャイン」と呼んだわざとらしさへの反骨、そして亡き友への友情。鈴さんに恋してしまう青年の感受性に青春が煌めく。

book

実在の人物の半生を、男の独占欲に痛めつけられた人生として描く

『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』
窪美澄/小学館/1760円

 綺麗な着物につられ、12才で舞妓になったみつ。舞妓になるということがどういうことかも知らず……。高岡智照尼とは実在した人物。瀬戸内寂聴の『女徳』でも知られる。旦那への腹いせで指を落として醜聞をふりまき、上京した彼女のブロマイドは飛ぶように売れ、新聞に半生を語り下ろすほどの有名人に。男の独占欲に翻弄された遍歴が「私」という一人称でより切なく迫る。

book

思案する読書人。むやみにあおらない筆致が心地いい

『千年の読書 人生を変える本との出会い』
三砂慶明/誠文堂新光社/1980円

 柔らかい語り口が新鮮。古典が頻出しそうだと多少気の重かった先入観も、そよ風に乗ってどこかへ消える。著者は新卒で入社した工作社が2年でつぶれ、懸命の就活で梅田の蔦屋書店の立ち上げメンバーに。寄る辺なかった時期に身にしみた本や、お金、食、死など現代の諸相も自分に引きつけて語る。現代の知性とはこういう柔らかさのことかも。巻末ブックリストもお役立ち。

文/温水ゆかり

※女性セブン2022年3月3日号

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン