『これを愛と呼ぶのなら』1巻より
恋愛オムニバスからラブサスペンスへ
本作には、舞台となるラブホテル「Incontrare」に、客としてではなくパートタイムでスタッフとして働く主婦の有富綾子が度々登場する。フロント業務が描かれることで、防犯カメラのモニターに映った画像が幾度か出てくるのだが、作品内に密室空間とモニター画面という2つのフレームが登場する仕掛けも面白い。
オムニバス形式で進む1巻とは打って変わり、3月末発売の2巻で本編はラブサスペンスの様相を帯び始める。その中心に居るのも、夫の不倫現場を押さえるべく「Incontrare」で働きだした綾子だ。彼女の内面に渦巻くのは、夫を問い詰めることで突き付けられる現実は直視したくないものの、見つけてしまったラブホテルのレシートを無いことには出来ないジレンマだ。
不倫された側の孤独と虚しさが痛い。専業主婦だった綾子はここで働くことによってどう変わり、何を選択するのか? 緊張感漂う展開の中で、穏やかそうに見える人物が狂気を帯びていく様が強く印象に残った。表向きに繕っていた仮面が剝がれ、その本性が露わになった時、物語は大きく動く。社会生活を行う上でこびりついた世間体や思い込みといったものを、衣服を脱がすように剝ぎ取ってゆく本作から、本当の意味で人が裸になった時、そこに何が残るのかを目撃してほしい。
評者/山脇麻生(ライター)
※女性セブン2022年3月17日号