とりあえず区役所に電話をしてみようかと、ネットでそれらしい番号を探してみたけれど、役所の営業時間はとっくに終わっている。それでやっとたどりついたのが110番。罪のないおばあちゃんを警察官に引き渡すという発想がすぐには浮かばなかったのよね。ともあれ、なくし物の問い合わせ以外で、私は初めて110番した。

 そうこうする間に、おばあちゃんはなんと、テーブルの上のゴミをつまみ上げて、ゴミ箱を目で探し始めたんだわ。で、「私、お手伝いに来ようかしら」と言うから、「それはありがたいけれど、家がわからない人にはお願いできないわね〜」と笑うと、「それもそうね」と笑い返すんだわ。

 会話はできるんだけど、肝心の住まいについては「見晴らしがいいお部屋に住んでいるんじゃない?」とか聞いても、「さあ〜」。経歴を聞いても「何だったかしら」。たった1つはっきり答えたのは出身小学校で、私が想像していた通り、地元の人だったのよね。

 で、現れた2人の警察官が最初に質問した「おばあちゃん、お名前は? 年齢は?」というこの2つの問いに、なんとスラスラと答えたの。そこを記憶していることをまったく想像しなかった私は驚いた。

 それで署に問い合わせたらすぐに住所がわかって、84才のMさんは上階の自分の部屋に送り届けられていった。

 その夜、私は心に誓ったね。きっと私はこれからも物忘れやなくし物で人に迷惑をかけると思う。その分、人にはできるだけ親切にしようと。それからいつ誰が入って来てもいいように、部屋はきれいにしておきたい、と。

 なにせ、その夜やって来た警察官がものすごいハンサムで、それゆえ、絶対に部屋を見られまいとドアの前で通せんぼ。こんなことはこれきりにしたいもの。

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。

※女性セブン2022年4月28日号

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