ブチャにある教会の裏手に並んだ遺体
政府のメディアツアー
池上:そんな状況での安全確保は大変でしょう。
水谷:日本から防弾チョッキと防弾ヘルメットを持参しました。キーウの戦況は落ち着いていますが、近郊ではロシア軍が設置した地雷の処理で時々爆発音が聞こえるので、土の上を避けてアスファルトの上を歩くようにしています。一度、地面に落ちていた弾薬のようなものを蹴ったら、「何をするんだ!」とコーディネーターに叱られました。
池上:私も旧ユーゴ内戦でサラエボの地雷原を取材した際、何気なく地面に足を着けると現地の運転手が真っ青になり、「アスファルトから出るな」と叫びました。帰国後もしばらく土の上を歩けませんでした。
水谷:キーウでは撮影にも注意が必要で、検問の様子は絶対に撮るなと言われています。地下鉄のホームに集まる避難民を撮影した際は、現地の警官にいきなり腕をひねられて転倒しました。警察も殺気立っていたので、銃で撃たれないだけ幸運だったのかもしれません。
池上:ウクライナ政府はキーウで外国人記者相手のメディアツアーを行なっているそうですね。
水谷:ロシア軍が撤退した4月上旬以降、海外メディアを対象に、ブチャやボロディアンカなど被害が甚大だった地域を回るバスツアーが始まりました。参加者の多くが欧州メディアです。ウクライナ側が案内してくれて楽なのですが、その情報を元に記事を書けば、メディアが戦争広告代理店のようになるのではとの違和感があります。
池上:よくわかります。ウクライナが多大な被害を被ったのは事実ですが、他方でウクライナは海外メディアに自分たちに有利な報道をしてもらいたいとの思惑がある。
水谷:おっしゃる通りです。もちろんウクライナはロシアに不当に侵略されましたが、例えば「ウクライナ人の住民が20人殺された」という現地住民の証言をそのまま報じてよいのか。その人が実際に殺害現場を見たのか、それとも20体の遺体を確認したのかなど、細かく裏を取る必要があります。一緒に行動するコーディネーターも「住民の話はどこまで本当かわからない」と語ることもあり、取材の難しさを感じています。