ウクライナ側は袋を開いて公開したという
取材協力者は「お金は要らない」
最も印象に残るのは、私の取材協力をしてくれた「フィクサー」と呼ばれる人たちだ。取材時の通訳やリサーチ、インタビユーの調整などを行なう、いわばアシスタント的な役割である。日本ではしばしば「コーディネーター」と呼ぶが、ウクライナでは「フィクサー」が一般的だ。海外取材の場合は特に、このコーディネーターの力量如何で明暗が分かれる。私はこれまでにフィリピンを中心に、タイ、ベトナム、インドネシアなど主にアジアを中心にコーディネーターと一緒に仕事をしてきたが、その人選に失敗して痛い目に遭った経験も少なくない。ゆえに今回も慎重にならざるを得なかった。
キーウ入りする前の、ウクライナ西部の都市リヴィウでのこと。
「もしよければキーウまで僕の車で一緒に連れて行ってあげるよ。お金は要らない。僕はお金のためにやっているわけじゃないんだ。それに以前働いていた会社で重役まで就いたから、今の僕にお金は必要ない。ただ、英語はネイティブ並みにはできないけど」
野太い声でそう話すのはウクライナ人男性のセルゲイ(39)。日本を発つ前に知人を介して紹介してもらったのだが、なんとキーウまで無償で連れて行ってくれるというのだ。確かにネイティブではないが、フィクサーとしては申し分ない英語力だ。もちろんガソリン代などは負担するとして、それ以外は「受け取らない」と豪語する。
私の経験上、海外で雇うコーディネーターの費用は1日当たり200~300米ドルが相場だ。これが戦場になるとさらに跳ね上がる。私がウクライナで聞いたこれまでの最高額は1日800ドル。こうした相場感を心得ていたから、セルゲイの言葉には半信半疑にならざるを得なかったのだ。
それが伝わったのか、「なぜ不審そうな顔をしているのだ?」と聞かれた上、「もし僕と一緒に行って、嫌になったらもっと信頼できるフィクサーを紹介してあげるよ」とまで言われたので、セルゲイに下駄を預けた。