フィクサーのセルゲイさんとのショット
そうしてリヴィウから約10時間かけてキーウを目指した。途中でブチャに立ち寄り、その日は1日中、セルゲイが取材のサポートをしてくれた。翌日もキーウ市内を案内してくれたが、4日目以降は「ビジネスの用事がある」と言われ、別々に行動することになった。
だが、それ以降もセルゲイからはほぼ毎日のように電話やメッセージ、役に立ちそうな記事が届き、「取材はうまくいっているか?」「紹介してほしい人は誰かいるか?」などと懇切丁寧である。遠慮なく「紹介して欲しい人がいる」と伝えると、翌日には当人、もしくは関係者の電話番号が送られてくる。どこまでお人好しなのだと思って、ある時、尋ねると、こう返ってきた。
「僕は特別なことは何もしていないよ。武器を持って戦うのが戦争。だったら僕にとっての武器は、今ここで起きている残虐なことを世の中に知らせるために動くことだ」
その心をもう少し聞いてみた。
「僕はソ連時代の不自由さ、そして貧困をまがりなりにも知っている。だから独立を果たしたウクライナで、自分たちの選択で人生の道を切り開けるという自由に喜びを感じている。自由な経済に価値を見出している。自由に旅行もしたい。だからロシアのような独裁者は求めていない。今のウクライナを守りたいだけだ」
「自由」という言葉を繰り返したセルゲイ。その真っ直ぐな思いが今、この国を一つにしているような気がする。
取材・写真・文/水谷竹秀(ノンフィクションライター)