3月の停電ではエレベーターやエスカレーターが泊まるなど混乱を招いた(時事通信フォト)
そうなると、「ほかの国から買えばいい」という状況ではなくなる。国際経済分析に詳しい、みずほ証券エクイティ調査部チーフエコノミスト・小林俊介氏が説明する。
「石油や石炭の禁輸であれば、ロシアは売れなくなった分を中国に安く売るため、これまで中国に輸出していたほかの産出国では石油・石炭が余ることになるでしょう。禁輸する国はそうした国から不足分を買うことが可能だと思います。
しかし、最も深刻なのは天然ガスです。欧州諸国はロシアからパイプライン経由で天然ガスを輸入している。禁輸となった時にロシアがそのまま余った分を中国に売ることはできません。新たにパイプラインを敷設するか、あるいは液化して販売するにしても、液化設備と運搬手段の整備に多額の費用と場合によっては数十年単位の期間がかかる」
ロシアは天然ガス産出量が世界2位、確認埋蔵量では世界1位だ。それだけに天然ガス禁輸は制裁効果が高いことになるが、禁輸する国には「両刃の剣」になるという。
「欧州諸国が輸入を止めれば天然ガスはロシア国内に滞留する。世界の天然ガス市場から17%を占めるロシア産が突然消えるわけです。その分を補うために、各国は天然ガスだけではなく、原油、石炭など、あらゆるエネルギー資源の奪い合いを始めるでしょう。
欧州のエネルギー不足によって、中東やオーストラリアをはじめ産出国は“言い値”で買ってもらえるようになり、日本が天然ガス、石油、石炭を買い負けてエネルギー不足に陥る事態も考えておかなければなりません」(小林氏)
世界のエネルギー危機が始まれば、先進国のなかでも極めてエネルギー自給率が低い(11.9%)日本も確実にその渦に巻き込まれる。
石油禁輸会見で岸田首相の表情が曇っていたのは、そうした事態を予想しているからではないか。
※週刊ポスト2022年5月27日号