ライフ

「手洗いの徹底」を最初に訴えた19世紀の医師・ゼンメルワイスの功績

手洗いの徹底を最初に訴えた産科医の話

手洗いの徹底を最初に訴えた産科医の話

 今もその対応に悩まされている新型コロナウイルスだけでなく、人類は様々な感染症とともに生きていかなければならない。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、手洗いの徹底を最初に訴えたゼンメルワイスついてお届けする。

 * * *
 新型コロナ対策ですっかり定着したのが「手指消毒」です。今週は、手洗いの徹底を最初に訴えた産科医の話をいたしましょう。

「産褥熱」は、分娩のときにできる産道の傷から細菌が侵入して起こる病気で、産後の母親が急に高熱を出し、腹膜炎や髄膜炎などを併発して重篤化する感染症です。今はそうではありませんが、昔は死亡率が時に3割を超える恐ろしい病気でした。

 ゼンメルワイスは1818年生まれ、ウィーン大学で医学を学び、同大学第一産科に勤務し、そこでこの産褥熱の惨状に直面します。

 当時のウィーン大学は第一産科(医師が担当)と第二産科(助産師が担当)があり、産科の診察と診療、学生の指導が行なわれていました。

 彼はある日、病院の産褥熱の死亡統計を処理していて不思議なことに気づきます。この病気は圧倒的に医師が担当する第一産科に多く、助産師の担当する第二産科は少ない。両病棟の死亡数に明らかな違いがあったのです。隣り合わせに立ち、設備も構造上もほとんど差が認められない両病棟で、どうしてこれほどまでに犠牲者数に差が生じるのか。さらに、病棟での産褥熱の発生データを詳細に見ていくと、診察を受けたベッドの列ごとに患者の発生に差があることもわかったのです。

 第一産科の医師は診察と診療のほかに、死亡患者の病理解剖も行なっていました。ゼンメルワイスは「死体を解剖したときに手についた毒素が、出産時の傷から入り込み、産褥熱を起こす」と考えました。

 というのも、当時の医師は解剖後も手を洗わずに出産に携わっていたからです。細菌やウイルス等が感染症を起こすという発見はされておらず、病原微生物の概念がない時代でした。

 ゼンメルワイスは洗面器に塩素水を入れ、病棟の前に立って監視しながら、医師に手洗いを徹底させます。この効果は絶大で、第一産科での産褥熱の発生率は激減したのでした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン