3月の停電ではエレベーターやエスカレーターが泊まるなど混乱を招いた(時事通信フォト)
参院選と原発再稼働
「石炭が禁輸されたらマンション価格が上がる」。そう指摘するのは経済ジャーナリストの荻原博子氏だ。
「石炭灰はセメントの材料に使われています。建設・不動産業界ではロシアが経済制裁の報復で日本にシベリア産木材の輸出を禁止した“ウッドショック”で木造住宅の建設費用が高騰しているが、石炭禁輸なら上昇中のコンクリート価格がさらに上がり、マンション価格にも転嫁されるでしょう。
また、紙の生産(製紙)には主に石炭とバイオマスが燃料に使われている。トイレットペーパーやティッシュペーパーなど紙製品は4月から10%以上値上げされましたが、それでも燃料高騰で採算が合わなくなっている。今後、禁輸で石炭価格が上がればさらなる値上げや新聞などの価格にも波及するかもしれません」
こうしたエネルギー危機は国民生活の広範囲に及ぶことが予想される。対応策はないのか。資源エネルギー庁で電気・ガス政策を担当した元経産官僚の政策アナリスト・石川和男氏は次のような見解を述べる。
「メインの電力不足を防ぐには停止中の原発を再稼働させる方法があるが、巨大プラントの整備や調整、長時間かけて核燃料を装填し、出力を合わせるなどの入念な準備が必要となる。
今から準備しても夏のピーク需要には間に合わない。7月は参院選が控えています。ほとんどの政治家は『原発再稼働』に前向きな発言をすると票が取れなくなると思い込んでいるようですが、多くの国民はきちんと説明されれば理解するでしょう。政治判断による再稼働を実行すべきです」
原発再稼働を進めるのか、再生可能エネルギーを拡大させるのか、ウクライナ危機が発生する前から石油・石炭などの資源に依存することの問題は指摘されていたが、「脱炭素」の掛け声ばかりで具体的な解決策が進められなかったからこそ、今の危機がある。この夏、未曾有のパニックが日本を襲っているかもしれない。
※週刊ポスト2022年5月27日号