長年にわたり現像やデジタル化を担ってきた東映ラボ・テックの技師、根岸誠氏(撮影/藤岡雅樹)

長年にわたり現像やデジタル化を担ってきた東映ラボ・テックの技師、根岸誠氏(撮影/藤岡雅樹)

――どこか、歴史学とか考古学に近い部分も感じられます。

根岸:そこまではシビアでないと思っています。長年いろいろなフィルムを弊社の技術者は見てきていますから。今はまだこのように経験をいかせる人がいる時期です。ただあと十年もすると、そういう技術者が、多分、いなくなります。

――若い技術者はネイティブでアナログを知らない世代になるため、フィルムの質感や色味を感覚で判断しにくくなってしまう、と。

根岸:そうですね。そのへんの色の判断ができる人は六十代以上なので。ですから、リマスターできるものは今のうちに全てやっておきたいぐらいなんです。まあ、これはなかなかそう簡単にはいきません。

――旧作となると、カラーだけでなくモノクロの作品もあります。その場合、リマスターの仕方に違いはありますか?

根岸:モノクロの場合、プリント自体は退色というより、経年で軟調になってしまうんです。当時よりフラットになって見えてきてしまう。撮影当時のコントラストというか、硬さを再現するのが難しいんです。

――黒色一つとっても濃淡の段階もありますし、それが経年により薄れていってしまいますからね。

根岸:それと、白黒の作品ほど、現代の人が見やすくないと駄目な感じはしています。撮影当時、モノクロでもきっとかなり画が硬かっただろうなという気がする作品でも、その調子のままで今上映したら、若い皆さんには抵抗がありそうだなと思うことがあります。

 ですから、コンテンツホルダーの担当者のご意見も聞きながら、今の観客が見やすいかたちを、探る必要があるのかもしれないですね。

【プロフィール】
根岸誠(ねぎし・まこと)/1948年生まれ、群馬県出身。東映ラボ・テックにて「突入せよ!『あさま山荘』事件」などでテクニカルコーディネーターを務める。2017年に文化庁映画賞受賞。現在は東映デジタルラボ株式会社テクニカルアドバイザー。本年2月の映画のまち調布シネマフェスティバル2022にて功労賞を受賞。

【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。

※週刊ポスト2022年5月27日号

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