国際女性デーに乗り合わせた乗務員に花をプレゼントするプーチン大統領(SPUTNIK/時事通信フォト)
では、誰が彼女たちに憎悪の言葉をぶつけてくるのか。声高にそうした主張を繰り返すのは、自分は「無関係」という意識があるのかないのか、当事者ではない日本人客や日本人の店舗関係者なのだという。イリーナさんが勤務する店の従業員が証言する。
「同じビルにあるロシアンバーでは、日本人のお客さんがロシア批判をしてロシア出身の女の子を泣かせてしまう、なんてこともあったそうです。戦争で世界に迷惑をかけているのだから謝れ、安くしろ、連絡先を交換させろ、と。お酒も飲まれていますし冗談なのはわかりますが、当事者にとっては笑えない。そういったお客さんは少なくないです」(従業員)
いくら酒に酔っているとはいえ、不幸な境遇の外国人を嘲笑う同胞の存在は、日本人として恥ずかしい限りである。こんなことは珍しいことだと思いたいところだが、残念ながら、特に夜の世界では珍しいことではないという。同じく、東京都内の東欧系バーの従業員・ソフィアさん(20代)が目に涙を浮かべる。
「店のボス(オーナー)は日本人ですが、今回の戦争でロシアが嫌いになったのか、ロシア人の女の子に冷たくしています。ロシアが悪い、ロシア政府が悪いといわないと、店に来なくていいよといわれる。他国出身者の女の子たちが抗議をしても、お前たちも被害者なのにロシアをなぜ批判しないと怒られてしまいます。なぜ戦争に直接、関係のない日本人から、ここまで言われなければならないのか。悔しいです」(ソフィアさん)
疲弊しきっている当事者に救いの手を差し伸べるのではなく、馬鹿にして、弱みに漬け込もうとするその態度は、醜悪という他ない。さらに、侵略戦争当事国であるロシアやウクライナの女性たちにつけ込み、積極的に利用しようとする日本人の存在もあるという。
「母国が大変でお金に困っているロシア、ウクライナの女性がいたら紹介してほしいとオーナーや、店の関係者に言われました。バーではなく、もっとアダルトな商売をさせようとしているのです。ウクライナから日本に避難してくる女性を積極的に受け入れたいそうですが、それは愛ではなく、ただ商売、金儲けのためにしか見えない」(ソフィアさん)
ウクライナから日本への避難民は合計1000人にも満たない。2021年6月時点での在留人数をみても、ロシアは9116人でウクライナは1860人。その後、大きく世界情勢が変化したとはいえ、紛争地から遠い日本へやってくる人が急増するわけもない。その少数の窮状につけ込んでビジネスチャンスにしようという浅ましさは、歴史を振り返ると過去にも繰り返し起きてきたことだ。
戦時の混乱に乗じて、不幸な境遇にある人をさらに窮地に立たせ、甘い汁を吸い尽くそうという輩はいつの時代にも存在するもので、歴代の戦史の裏側にもしっかりと刻まれてきたし、日本国民のほとんどがそうした史実を知っている。足元で起きつつある卑怯な出来事を、見過ごしにしたくはないものだ。