国内

本土復帰50年『ちむどんどん』では描かれない沖縄ヤクザの裏面史【前編】

「やんばる」では過激な抗争が繰り広げられていた(1992年の暴対法施行時に聴聞を受けた旭琉会幹部。写真/共同通信社)

「やんばる」では過激な抗争が繰り広げられていた(1992年の暴対法施行時に聴聞を受けた旭琉会幹部。写真/共同通信社)

 本土復帰から50年の節目に、沖縄を舞台にしたNHK朝の連続テレビ小説『ちむどんどん』が放送されている。一方、沖縄では、朝ドラでは描かれない“裏面史”もある。フリーライターで『サカナとヤクザ』などの著書があるフリーライターの鈴木智彦氏がリポートする。【前後編の前編】

 * * *
『ちむどんどん』の舞台となる“やんばる”は、山が重なり合う森林地帯で、ヤンバルクイナといった天然記念物や貴重な動植物の宝庫だ。主人公の一家が暮らす「山原村」は架空の集落なので特定できないが、沖縄本島北部、名護市以北と考えていい。那覇市や沖縄市からは距離があり、観光客はあまり足を運ばないだろう。レンタカーを借りても名護市を越え、国頭郡本部町の『美ら海水族館』に行くのがせいぜいで、やんばるをドライブするのは、かなりのマニアといっていい。

 暴力団を取材テーマとする私はそのマニアの一人だ。初めての沖縄取材でも那覇に宿を取らず、まっすぐやんばるに向かった。ヤクザオタクにとって、やんばるは数々の伝説のヤクザを輩出した武闘派の代名詞で、凄惨な抗争事件の現場となった聖地である。当時はまだフィルムカメラの時代で、やんばるの撮影だけで36枚撮りフィルムを10本以上消費した。

 年代や場所を特定すればするほど、架空の物語をフックに実際の歴史に切り込める。『ちむどんどん』の第1話は東京オリンピックが開催された昭和39(1964)年から始まった。両親はサトウキビを栽培する貧農で、父・比嘉賢三(大森南朋)、母・優子(仲間由紀恵)の夫婦には、主人公の暢子(黒島結菜)はじめ4人の子供がいる。サトウキビ畑の労働は過酷だったらしい。ヤクザたちも金がなくサトウキビを刈り取って製糖工場に運んでいた。

「若い者が徒党を組んでキビ倒し。なにがヤクザかぜんぜん分からん。あれだけは金がある時は絶対に行かなかったよ。とにかくきついから」(現・旭琉會・花城松一最高顧問。『沖縄ヤクザ50年戦争』より抜粋)

 ヒロインの父親はこの年に死亡するが、過酷な労働が身体を蝕んだのかもしれない。

 暢子は10歳なので昭和28年生まれ、最初の子供である長男・賢秀(竜星涼)は昭和24年生まれの団塊世代だ。戦前まで沖縄にはヤクザ組織が存在しなかった。集団化してグループを形成したのは昭和27年頃だ。ヒロインの歩みは、沖縄ヤクザの歴史そのものである。比嘉家の背景を知れば、沖縄ヤクザのすべてが分かる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

精力的な音楽活動を続けているASKA(時事通信フォト)
ASKAが10年ぶりにNHK「世界的音楽番組」に出演決定 局内では“慎重論”も、制作は「紅白目玉」としてオファー
NEWSポストセブン
2022年、公安部時代の増田美希子氏。(共同)
「警察庁で目を惹く華やかな “えんじ色ワンピ”で執務」増田美希子警視長(47)の知人らが証言する“本当の評判”と“高校時代ハイスペの萌芽”《福井県警本部長に内定》
NEWSポストセブン
ショーンK氏
《信頼関係があったメディアにも全部手のひらを返されて》ショーンKとの一問一答「もっとメディアに出たいと思ったことは一度もない」「僕はサンドバック状態ですから」
NEWSポストセブン
悠仁さまが大学内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿されている事態に(撮影/JMPA)
筑波大学に進学された悠仁さま、構内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿「皇室制度の根幹を揺るがす事態に発展しかねない」の指摘も
女性セブン
奈良公園と観光客が戯れる様子を投稿したショート動画が物議に(TikTokより、現在は削除ずみ)
《シカに目がいかない》奈良公園で女性観光客がしゃがむ姿などをアップ…投稿内容に物議「露出系とは違う」「無断公開では」
NEWSポストセブン
ショーンK氏が千葉県君津市で講演会を開くという(かずさFM公式サイトより)
《ショーンKの現在を直撃》フード付きパーカー姿で向かった雑居ビルには「日焼けサロン」「占い」…本人は「私は愛する人間たちと幸せに生きているだけなんです」
NEWSポストセブン
気になる「継投策」(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督に浮上した“継投ベタ”問題 「守護神出身ゆえの焦り」「“炎の10連投”の成功体験」の弊害を指摘するOBも
週刊ポスト
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
九谷焼の窯元「錦山窯」を訪ねられた佳子さま(2025年4月、石川県・小松市。撮影/JMPA)
佳子さまが被災地訪問で見せられた“紀子さま風スーツ”の着こなし 「襟なし×スカート」の淡色セットアップ 
NEWSポストセブン
第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン