「コロナ禍の時期に、ニューヨーク市にある病院の医療従事者343人を対象にマスク着用の弊害について調べたところ、245人が頭痛を訴えました。175人が肌荒れ、182人がにきび、さらには81人が認知障害を訴え、マスク着用をやめるとそれらの症状がなくなった人が複数いたのです。この調査は、医療関係者がマスクを長時間使用すると、多くの弊害が生じる可能性を指摘しています」
新型コロナ発生後、これ以外にもマスク着用の弊害について多くの研究が進んでいる。その集大成とされるのが、ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツやFOM大学などの研究チームが2021年4月に公表した「鼻と口を覆うマスクを毎日つけることで、弊害や潜在的な危険性は生じるか」という論文(以下、マスク論文)である。アメリカ在住の内科医・大西睦子さんが説明する。
「研究チームは、マスク着用による副作用について、44件の研究と65件の発表論文を科学的に分析しました。それにより、マスクの着用により、繰り返しみられる心理的、身体的な悪化や複数の症状があると結論づけ、それを『マスク誘発疲労症候群(MIES)』と名づけています」
マスク論文ではマスク着用がもたらす弊害を「生理・病態生理学的」「神経学的」「心理的」「皮膚科学的」など各分野に分けて列挙している。まず注目すべきは、「思考能力の低下」だ。
「マスクを着用している時に息を吐くと、血管に圧力がかかるなどの理由で血液中の二酸化炭素が増加し、血液中の酸素量が減少します。すると呼吸回数が増えて思考能力が低下したり、無呼吸症や混乱、方向感覚の喪失などが生じてしまうのです。高性能なマスクほど着用者の脈拍が速く、血中酸素が減少しやすくなり、健康的な若者が呼吸困難に陥ったケースも報告されています」(羽生さん)
なぜ、マスクの着用が思考能力の低下をもたらすのか。一石さんは二酸化炭素と酸素の量がポイントになると語る。
「体内の老廃物ともいえる二酸化炭素は、本来は呼吸とともに体外に排出されますが、マスク着用で自然な状態より排出されにくくなり、体内に取り込む酸素摂取量がわずかに下がります。このいわば『隠れ酸欠』が頭痛や倦怠感、めまい、無気力、集中力の低下といった多くの症状を引き起こすのです」
このほか100分ほどのマスク着用により、有意な思考障害と集中力の低下が認められたという中国浙江大学建設工程学院の論文があるほか、米セーラム退役軍人会医療センターの論文では、マスク着用によって心肺機能が低下し、QOL(生活の質)が下がる可能性を指摘している。