引退会見には三浦大輔監督がサプライズ登場した(時事通信フォト)

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できなかったことができると楽しい

 日常生活でもYouTubeなどでアメフトの試合動画を見て研究する。石川はプロ野球の現役時代から世界最高峰のNFLの試合をよく見ていた。優勝決定戦のスーパーボウルは毎年欠かさずチェック。試合について熱く語っていた姿が思い出される。

「興味を持ちだしたのは横浜高校の時ですね。アメフト部に仲が良い友達がいて、高3の時に関東大会出場を決めた県の秋季大会準決勝を見に行ったんです。大雨だったんですけどユニフォームを泥だらけにして、勝った時に選手たちが泣いていた。それを見て感動しました。アメフトって凄いなって。もちろん野球をやっていたので、当時はアメフトの選手になるなんて想像もできなかったですけどね」

 人生は不思議なものだ。プロ野球選手としてのキャリアを終え、17年の月日を経てアメフトに挑戦している。横浜高の同級生でアメフト部だった数田良仁は日体大を経て、社会人フットボールリーグXリーグの富士通フロンティアーズで史上初の3連覇(2017~2019年)に貢献している。石川がアメフトに挑戦した際、「高校から15年以上経ったのか。やっとアメフト始めるのね」と数田からLINEが送られてきたという。

 X1リーグは9月に開幕する。昨年までの8チームから新たに4チームが加わり、12チームが2つのディビジョンに分かれて、総当たり戦で5試合を戦う。各ディビジョンの上位4チームがポストシーズンに進出し、計8チームによるトーナメントで優勝を決める。昨年のノジマ相模原ライズは8チームの総当たり戦で5位とポストシーズンに進出できず、悔しい結果に終わった。

 石川は7試合中4試合でベンチ入り。3試合に出場した。チームに合流して2か月あまりの準備期間しかなかったにもかかわらず、デビュー戦となった9月4日の開幕戦・富士通フロンティアーズ戦に途中出場すると、24ヤードのパスを見事キャッチ。相手のディフェンス陣が背後からチャージを仕掛けてきたが、見事なボディコントロールでボールを捕球した。記録に残る大きな一歩を刻んだ。

 もちろん、結果に満足しているわけではない。アメフト挑戦2年目の今季。大きな目標はタッチダウンを決めることだ。

「イメージしていたスペースに走り込めたり、急スピードから止まって切り返して守備の選手を振り切ったり、できないことができるようになると手応えを感じるし楽しい。でも、僕は凄くないです。平日働きながらアメフトに打ち込んでいる他の選手たちの方が凄いですよ。みんなで喜びたいので日本一になりたいですね」

 プロ野球選手の時は飲食店で美味しい料理を食べたり、ショッピングに出掛けてリフレッシュしていた。だが、今は違う。

「コロナ禍ということもありますが、外食に行かなくなりましたね。お酒もほとんど飲まなくなった。洋服も全然買わない。家とトレーニング施設を往復する毎日です。基本的にアメフト以外にお金を使わない。年をとったからかも(笑)」

 真っ黒に日焼けした顔がほころぶ。心なしか若返ったように見える。石川はアメフトに夢中だ。

■取材/文:平尾類(フリーライター)

DeNAファンから愛された石川(時事通信フォト)

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