芸能

映画界の性暴力問題「嫌ならなぜその場で拒否しなかった?」という二次被害

俳優が安心して演じられるように全面的にサポートを行う「インティマシー・コーディネーター」は日本ではまだ2人のみ(写真/GettyImages)

西山ももこさん。俳優が安心して演じられるように全面的にサポートを行う「インティマシー・コーディネーター」は日本ではまだ2人のみ(撮影/浅野剛)

 ヌードや疑似性行為で迫真の演技をすれば「脱ぎっぷりがいい」「一皮むけた」と称賛されてきた。たしかに、俳優も役者魂を持って演じていたことだろう。しかし、本心ではその行為をやりたくはなかったかもしれない──。これまで声を上げられなかった俳優らの声に耳を傾けるべく、撮影現場で新しい職業が生まれた。それはラブシーンを調整する「インティマシー・コーディネーター」だ。

 映像業界でインティマシー・コーディネーターが誕生したのは2018年頃のこと。ハリウッド女優たちが有名映画プロデューサーによる性暴力やハラスメントの被害をSNSで告白した「#MeToo運動」を機に、欧米で広まった。

 歴史的に映像制作の現場では、作品作りという大義名分のもと、数々の性暴力が行われてきた。アメリカでインティマシー・コーディネーターとして活動するアッシュ・アンダーソンさんが挙げるのは、1972年に公開された映画『ラストタンゴ・イン・パリ』だ。過激な性的描写が多い本作では、中年男性のポールが若い女性ジャンヌを強姦するシーンが描かれる。

「監督らは、ジャンヌを演じたマリア・シュナイダー(当時19才)に、強姦シーンがあることを隠して撮影に入りました。問題は、彼女が亡くなったいまも全世界でこの映画の映像を見られることです」(アンダーソンさん)

 生前、シュナイダーさんはインタビューで当時の気持ちをこう打ち明けている。

《実際の性行為はなかったものの、脚本になかった撮影は屈辱的で、監督と相手役の両方に少し強姦されたような気分だった》

 1981年公開の映画『白いドレスの女』では、映画初出演のキャスリーン・ターナー(当時27才)が、大胆で官能的なベッドシーンを演じた。映画はヒットしたが、彼女は2000年に出演したラジオ番組で、撮影初日に監督から予告なしでヌードシーンを求められたと告白している。

 世界で大ヒットした映画『氷の微笑』(1992年)には、主演のシャロン・ストーン(当時34才)が警察の尋問中に脚を組み替えた際、スカートの奥が見えるシーンがある。公開から約30年後、主演のシャロンはそのシーンについて「監督に騙された」と回顧録で明かした。監督から「白い下着が光を反射する」「見えていない」と言われ、下着を脱いで撮影に挑んだというが、実際は違っていた。

 そうした実名での告白は、氷山の一角にすぎない。昨年、現代美術家らが立ち上げた『表現の現場調査団』が美術や演劇、映像などの「表現」にかかわる人たちが受けたハラスメントの実態調査の結果を発表した。回答した1449人のうち、過去10年以内に「(何らかの)ハラスメントを受けた経験がある」と答えた人は1195人に上った。「望まない性行為を強要された」人は129人、「制作上の演出やアートであることを理由とした性被害にあった」人も121人いた。

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