コロナ専用病棟での勤務は肉体的にも精神的にも過酷(イメージ、Sipa USA/時事通信フォト)

コロナ専用病棟での勤務は肉体的にも精神的にも過酷(イメージ、Sipa USA/時事通信フォト)

仕事を辞めた自分の不甲斐なさにも腹が立つ

 福岡県在住の元看護師・川村日奈子さん(20代・仮名)も、井田さん同様に医療従事者であることに限界を感じ、今年初めになって勤務先を辞めた。

「私の場合、コロナ禍の初期に看護学校を卒業し、勤務先でいきなりコロナ病棟の担当に回されました。この三年間、ずっとコロナに翻弄され、夢だった仕事を続けていくのが死にたいほどの苦痛に変わりました」(川村さん)

 医療従事者としての強い使命感を持ち、なんとか仕事を続けていた川村さんだったが、なぜ、新規感染者数が落ち着いたタイミングで仕事をやめてしまったのか。

「今年に入り、目に見えて感染者数が減ってくると、周りの友人たちは遊びに出かけたり飲み会をしたりしていました。仕事も少し落ち着き、以前のように多忙でなくなったため、私だって少しは羽を伸ばしたいと友人を誘ったんです。でも、みんなの様子がなんかおかしいんです」(川村さん)

 川村さんが看護師を志し、コロナ患者に相対していたことを知る友人たちは、川村さんとの接触を拒んだのである。言っておくが、川村さんが元々嫌われていたとか、そういうことではない。川村さんのSNSには、かつて撮影された友人たちとの微笑ましい写真がいくつも投稿されていて、たくさんのコメントも確認できる。取材していても、気遣いや配慮が感じられ、川村さんが慕われていることは間違いない。それでも周囲が避けるのは、自分が医療従事者だからに他ならないのだと川村さんは言う。

「病院の上司には甘い、と言われるかもしれませんが、もう我慢の限界でした。友達にバイキン扱いされているように感じ、みんなが遊びに出かけている中、自分だけは我慢しなければならない。密ではなく開放的な場所ではマスクをはずそう、なんて言われていますが、医療従事者は今でも厳しい感染対策を強いられ、自由な生活とは程遠い」(川村さん)

 友人達が接触を控えたのは、川村さん自身が思っているのは別の理由かもしれない。あまりに体調が悪そうで、忙しそうな彼女のことを慮ってのことだったかもしれない。しかし、病院内では同僚と食事をするのも「悪」とされ、同僚とささやかな忘年会をした動機の看護師が、上司から厳しく叱責されているのも目撃した。そういった様々なことが続き、余裕を持てなくなるほど思い詰めた川村さんはついに体調を崩し、病院を辞めた。

「同じ看護学校を卒業して、私と同じような境遇で仕事をせざるを得ず、心が折れて早々に看護師を辞めた子は何人かいます。自分の不甲斐なさにも腹が立ち、責任を放棄したような気持ちになり、もう看護師に戻る資格はないのではないかとも思います。でも本当に辛かった。私の勤務先が特別に厳しかったのではありません。多かれ少なかれ、医療従事者は同じような思いをしているんです」(川村さん)

 世間が「かつての日常」を取り戻そうとしている中、自分達だけが、今なお「コロナ禍」の真っ只中に取り残されているように感じる医療従事者は少なくない。そんな辛い現実に押しつぶされ、医療従事者としての誇りすら捨てざるを得ない状況が放置されている実情は、あまりに残酷という他ない。

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