ライフ

コロナ対応に忙殺された医療従事者たちに「日常生活」は戻っていない

新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、海外からの観光客受け入れが一部再開。成田空港に到着した団体ツアー客(時事通信フォト)

新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、海外からの観光客受け入れが一部再開。成田空港に到着した団体ツアー客(時事通信フォト)

 毎日、新型コロナウイルス(COVID-19)の新規感染者数が発表されるが、その数字が特別、気にならないくらい状況が落ち着いてきた。いつでもどこでも消毒やマスクに気を配る生活も一段落して、人が集まるショッピングモールや行楽地へ出かけやすくなった。だが、コロナ感染に対しては今も対処療法しかないのが現実だし、新規感染が消えたわけではない。ライターの森鷹久氏が、いまは愚痴をこぼすのも難しくなった医療従事者たちの厳しい現実についてレポートする。

 * * *
 新型コロナウイルスの新規感染者数は長らく減少傾向にあり、多くの場面で「かつての日常」が取り戻されつつある。プロスポーツ観戦も全座席が販売され鳴り物応援も解禁、学校では子どもたちがマスク無しでスポーツに励んだり、久しぶりの家族旅行を計画する人も少なくない。休日のショッピングモールや行楽地は人で溢れかえっている。以前の日常を取り戻しつつあることに皆が心を躍らせているが、そんな中で、まるで世間から存在を忘れ去られたような人たちがいる。

「医療従事者にエールをと、テレビや新聞が報じて、私の仕事を知る人から感謝の言葉をいただくこともありました。それはそれで嬉しかったのですが、それも遠い過去のように思えます」

 都内の総合病院に勤務する看護師・井田香苗さん(仮名・30代)は、2020年春からずっと、コロナ感染者の対応に忙殺されてきた。感染者が激増した際には、病院が急きょ開設したコロナ専用病棟に移り、2週間休みなしの連続の勤務を強いられたこともあった。家族と同居しているため、夫や子供、そして夫の両親に感染させる可能性がある、また、家族から感染させられ仕事ができなくなる懸念がある、という理由で自宅に戻れず、ホテルと病院を行き来するだけの辛い時期を過ごさざるを得なかった。

「医療従事者の過酷な状況はテレビでも報じられ、病院には激励の電話がかかってきたり、手紙が届けられたり、現金が送られてくることもありました。これほどまでに必要とされていたのかと、医療に携わるものとして本当に誇らしかったし、心身ボロボロでしたが、何とか乗り越えられた」(井田さん)

 そして時が経ち、新規感染者数が減ってくるとコロナ専用病棟は閉鎖され、井田さんたちの勤務状況はいくらかマシになった。自宅にも帰れるようになったし、以前と比較すると人間らしい生活を送れるようにもなった。しかし、いくら新規感染者数が減ったところで、医療従事者としての立場は変わらない。

「今でも、私たちが感染してしまえば大変なことになるのに変わりはありません。だから、皆さんのように気軽に遊びに行ったりできないし、ずっと我慢は続いているんです。なのに、テレビも新聞も『元の生活が戻ってきた』とお祭り騒ぎ。そんななかで、飲み会に行ったり遊びに行ったことが原因で感染した、という患者を相手にしていると、医療従事者だという意識を忘れるくらい、怒りや情けなさ、悲しさが込み上げてくるんです」(井田さん)

 特に辛いのは、子供の学校行事などにも参加できないこと。勤務先の病院から強制されているわけではなく、事前に検査を行なっていればそうした行事にも参加できるのだが、同じ病院の関係者はみな「自粛」。コロナ患者と今も対峙し続けていることを知るママ友や子供の友達からは、距離を置かれていると感じ、行きづらいのだ。

「当時も敬遠はされていましたが、表向きには、立派だ頑張れと声をかけられていました。ですが今は……。子供を旅行どころか日帰りで行楽地へ連れて行くのもできずにいるので、仕事をやめてほしいと言われたことも。あまりにも悲しすぎます」(井田さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《広陵高校暴力問題》いまだ校長、前監督からの謝罪はなく被害生徒の父は「同じような事件の再発」を危惧 第三者委の調査はこれからで学校側は「個別の質問には対応しない」と回答
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン