元朝日新聞の記者・牧内氏(当時は旧姓の竹田麻衣氏)がパートナーの牧内昇平氏らを代理人として朝日新聞に提出した「調査申立書」。牧内氏は朝日新聞の対応に不満を抱いていた
牧内氏は2か月あまり踏ん張ったものの、10月には精神科、心療内科に通うようになり、休職に追い込まれた。
2019年、牧内氏は朝日新聞社人事部に対し、「セクシュアル・ハラスメント対応に関する調査申立書」を提出したが、返ってきたのは木で鼻を括るような回答だった。
「朝日新聞は第三者による調査を拒否した上、『対応に非はなかった』と結論づけました。回答期限から3か月近く遅れた上、責任者の名前や押印のない文書でした。裁判で争うことも考えましたが、当時は私の希死念慮が強く、安全面を優先して断念しました」(牧内氏)
同年、牧内氏は朝日新聞を退社した。
新聞社は見て見ぬふり
性被害問題について積極的に取り上げている新聞社が、自社の記者が直面している性被害問題については目を逸らす──。
前出の柴田氏はこう指摘する。
「新聞社が若手記者を取材対象と同宿させ、常時取材させるのは昭和的な価値観に基づく行為で時代錯誤です。現実に性被害が起きても、加害者であるチームや高校野球界との関係を重視して問題視しないのは企業倫理が問われるだけでなく、ジャーナリズムとしてもどうなのでしょうか」
牧内氏はこう続ける。
「今でも新聞で性被害関連の記事をまともに読むことは苦痛です。私に起きた事件を知っている記者たちが何事もなかったかのように性暴力に反対する記事を書いていることに疑問を覚えますし、腫れ物のようにされて無視され続けてきたことへの無力感が強まります。
私は今も尊厳を大きく傷つけられるような被害にあっている記者がいると確信しています。“夜討ち朝駆け”のような旧態依然とした取材手法を改めようとしないメディアは、端的に言って性被害を見て見ぬ振りをしているのではないでしょうか。従来の取材方法の抜本的な見直しと具体的な被害予防策の構築が必要だと思います」