国内

甲子園で起きている性被害【後編】女性記者がホテルのドアを開けると「選手の一人が…」

高校球児を取材していた記者から数々の性被害報告が…(イメージ)

高校球児を取材していた記者から数々の性被害報告が…(イメージ)

 MeToo運動が広まり、映画界をはじめとする「性暴力問題」の告発が相次ぐなか、それを報じる新聞社が見ないふりをしている性被害があった。その現場は、高校球児の聖地・甲子園。当事者たちが実名で告発する。【前後編の後編。前編から読む

 * * *
 甲子園での性被害の問題は、2008年の『週刊文春』(5月15日号)の報道で表沙汰になった。

 強豪校の監督が、センバツを主催する毎日新聞の女性記者を居酒屋やカラオケに連れて行き、「もう一度俺に恋をさせてくれ」と迫り、手を握るなどのセクハラ行為を行なったことが報じられた。さらに記事では、夏の甲子園でも同じ強豪校の主力選手が、主催社である朝日新聞の女性記者が宿泊するホテルの部屋を訪れ、露出した局部を手でしごく動作をしたり、女性記者に電話をかけて卑猥な言葉を投げかけた事件も詳報。被害に遭った毎日新聞と朝日新聞の女性記者がともに休職に追い込まれたことも伝えた。

 この時、性被害に遭った女性記者が2020年に「甲子園がつらいという話」と題してブログで発信したのが、元朝日新聞記者の柴田優呼氏がツイッターで甲子園での性被害を問題提起するきっかけとなった記事だ。ブログで性被害を告発した元朝日新聞記者の牧内麻衣氏が、本誌・週刊ポストの取材に答えた。

「2007年8月に、私は県の代表校の帯同記者として甲子園に行きました。地方大会と同じく、監督へのインタビューや選手取材、報道各社への事務連絡などを淡々とこなしていました。担当したチームは大阪府内の比較的大きなシティホテルを使っていたので、私には鍵付きの個室が用意されていました。熱心な担当記者のなかには、宿舎に帰ってからも監督や選手たちと共に過ごすということも聞きましたが、私はそういうことは一切していませんでした」

 担当するチームが試合に勝ち、ホテルに戻ったある夜、牧内氏の部屋のベルが鳴った。ドアを細く開けると、選手の一人が立っていた。

「少し不安そうな声で何度も『話したいことがあるんです』と言うので私がもう少しドアを開くと、その選手がドアの隙間に手を差し込んで、すーっと部屋に入ってきました。反射的に後ずさると、選手はその隙に後ろ手に閉めたドアの前に立ちはだかりました。体格も私より大きく、触られる不安もあり、部屋から出たくても怖くてドアには近づけませんでした。すると選手が卑猥な言葉を口にしながらズボンの中に手を入れ、マスターベーションを始めました。ニヤニヤと気持ちの悪い表情を浮かべていました」(同前)

 逃げたくても逃げられない状況だったため、牧内氏は「やめてほしい。やめないと大変なことになるよ」「試合に出られなくなる。監督に電話するから、すぐに部屋を出なさい」と、説得して行為をやめるよう促した。

「選手はハアハアと息を荒らげ、とてもまともに話せる状況ではありませんでした。『試合に出られなくなる。帰りなさい』と繰り返すと、しばらく経ってようやく出ていきましたが、その後、部屋の電話が何度も鳴らされて、その選手から『言わないでくださいね』と言ってガチャンと切られたり、吐息の音だけをさせたり、気持ちの悪い電話が続きました」(同前)

 翌朝、牧内氏は高校野球期間中の担当デスクにありのままを伝えた。だが、その後の対応に失望させられたという。

「デスクが本社や関係各所に連絡を入れると、しばらくして『とりあえず宿舎を移れ』と言われました。被害を受け、別のホテルに移動してからも、私は加害者のいるチームの取材を続けさせられました。デスクは『取材はできる範囲でいいから』と言いましたが、チームが勝ち残れば当然、出さなければならない記事や業務は増えました」(同前)

 チームが負けて地元に帰ってからも地方版に甲子園大会の「ふりかえり記事」を書く必要があり、やっとの思いで高校野球の取材を終えた8月末、上司から事件の処理についてこう説明された。

「学校が当該の選手らに聞き取りを行ない、本人もすべて認めたそうだ。選手は僕の前で謝った。相手は未成年だし、未来がある。この件の処理はこれで終わりだ」

 牧内氏の返答を待たずに、上司からは9月以降の人事の話をされ、秋から県警キャップをやるように言われた。これも配慮を欠く人事であったと牧内氏は振り返る。

「私は高校野球での性被害の前年に警察を担当した際、警察官からも性暴力被害を受けていました。その際、私自身が県警の取り調べを受けた上、当該警官は事実関係を認め依願退職しています。上司はそうした経緯を知りながら私に県警キャップを命じました。傷口に塩を塗るような行為で、信じられませんでした」

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平(左/時事通信フォト)が伊藤園の「お〜いお茶」とグローバル契約を締結したと発表(右/伊藤園の公式サイトより)
《大谷翔平がスポンサー契約》「お〜いお茶」の段ボールが水原一平容疑者の自宅前にあった理由「水原は“大谷ブランド”を日常的に利用していた」
NEWSポストセブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
離婚のNHK林田理沙アナ(34) バッサリショートの“断髪”で見せた「再出発」への決意
NEWSポストセブン
フジ生田竜聖アナ(HPより)、元妻・秋元優里元アナ
《再婚のフジ生田竜聖アナ》前妻・秋元優里元アナとの「現在の関係」 竹林報道の同局社員とニアミスの緊迫
NEWSポストセブン
かつて問題になったジュキヤのYouTube(同氏チャンネルより。現在は削除)
《チャンネル全削除》登録者250万人のYouTuber・ジュキヤ、女児へのわいせつ表現など「性暴力をコンテンツ化」にGoogle日本法人が行なっていた「事前警告」
NEWSポストセブン
水卜麻美アナ
日テレ・水卜麻美アナ、ごぼう抜きの超スピード出世でも防げないフリー転身 年収2億円超えは確実、俳優夫とのすれ違いを回避できるメリットも
NEWSポストセブン
撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
遺体に現金を引き出させようとして死体冒涜の罪で親類の女性が起訴された
「ペンをしっかり握って!」遺体に現金を引き出させようとして死体冒涜……親戚の女がブラジルメディアインタビューに「私はモンスターではない」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン