国内

【安倍氏銃撃】呉智英氏「テロではなく私怨の事件」、それでも「なぜ今なのか」

評論家の呉智英氏が安倍氏銃撃事件を分析

評論家の呉智英氏が安倍氏銃撃事件を分析

 戦後初となる総理大臣経験者の暗殺事件がニッポン社会を大きく揺るがしている。なぜ悲劇が起きたのか、評論家の呉智英氏が見解を述べる。

 * * *
 事件直後に参院選が控えていたため、すぐに「民主主義に対する挑戦だ」といったコメントが流れた。しかし、今回の事件はそうではない。容疑者は政治信条を理由に凶行に至ったわけではなく、まったくの私怨で事件を起こした単なる殺人者でしかない。

 テロであるとか、そうした言葉がメディアに躍ったことにまず違和感を覚えた。テロというのは自分と政治信条や思想的な立場の違う人間を暴力によって抑え込むためにやるものだ。

 過去には浅沼稲次郎が殺された事件(1960年)があったが、これが典型的なテロだ。思想・信条が違う人間をターゲットにした。つまり容疑者はテロを起こしたわけでもない。

 徐々に報道で出てきた旧統一教会との関係に私怨の根っこがあるとみられ、献金のために母親が破産し、安倍氏が団体とつながっている政治家だからと一方的に恨みを募らせたようだ。

 事件におけるセキュリティの問題をことさらに取り上げて非難する声もあるようだが、私は少し酷な気がする。むしろ短期的に模倣犯が出てくる可能性があるので、しばらくは注意が必要だろう。今回のことに刺激されて、別の宗教や人間が標的になることも考えられる。

 安倍晋三という政治家は長期政権でもあり、それなりの業績があった人物だ。私自身、政治思想に賛成するか否かは別にして、彼が凶弾に倒れたということは歴史的に大きな事件であることは間違いないと考えている。

 そして安倍氏の死で影響がありそうなのが、“一丁目一番地”である憲法改正だ。特に「戦力の不保持」「戦争放棄」を謳った憲法9条だ。

 これまでの政権は9条を理由にして、真正面から戦争をやらずに切り抜けてきたが、今後はこの9条改正の議論が本格化するだろう。そうなれば、自衛隊を国防軍として認めることも現実味を帯びてくる。岸田文雄・首相も「安倍政権の遺思を継ぐ」と明言していることからも、この路線は避けられないように感じている。

 こう見ると、いかにも狙いすましたようなタイミングで今回の事件は起こった。なぜ今なのか、一言では言いにくいが、世界の危機意識や国内の格差問題、これを処理しきれない政治への不信感。そうしたものがある意味“臨界点”に達したのかもしれない。

※週刊ポスト2022年7月29日号

関連記事

トピックス

WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン
高校時代には映画誌のを毎月愛読していたという菊川怜
【15年ぶりに映画主演の菊川怜】三児の子育てと芸能活動の両立に「大人になると弱音を吐く場所がないですよね」と心境吐露 菊川流「自分を励ます方法」明かす
週刊ポスト
ツキノワグマは「人間を恐がる」と言われてきたが……(写真提供/イメージマート)
《全国で被害多発》”臆病だった”ツキノワグマが変わった 出没する地域の住民「こっちを食いたそうにみてたな、獲物って目で見んだ」
NEWSポストセブン
2020年に引退した元プロレスラーの中西学さん
《病気とかじゃないですよ》現役当時から体重45キロ減、中西学さんが明かした激ヤセの理由「今も痺れるときはあります」頚椎損傷の大ケガから14年の後悔
NEWSポストセブン
政界の”オシャレ番長”・麻生太郎氏(時事通信フォト)
「曲がった口角に合わせてネクタイもずらす」政界のおしゃれ番長・麻生太郎のファッションに隠された“知られざる工夫” 《米紙では“ギャングスタイル”とも》
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン
東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
将棋界で「中年の星」と呼ばれた棋士・青野照市九段
「その日一日負けが込んでも、最後の一局は必ず勝て」将棋の世界で50年生きた“中年の星”青野照市九段が語る「負け続けない人の思考法」
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン