死を受け止めきれないお母さんに、助産師としてどう接すればいいのか、赤ちゃんを荼毘に付すまで、お母さんたちはどのような時間を過ごしたいと考えているのか。母親のケアを模索した渡辺さんたちが行き着いた答えの1つが、エンジェルドレスだった。渡辺さんは、悲しみに暮れる母親に対し、こんな言葉をかける。
「赤ちゃんをきれいにして、かわいい服を着せてあげてから、もう一度、ゆっくりお会いしませんか?」
母親は、自分が母親として、わが子にしてあげられることがまだ残っていると気づく。
「赤ちゃんにかわいい服を着せてあげて、抱っこしてあげる。そして、最後の瞬間まで一緒にいてあげる。それが、母親として、赤ちゃんにしてあげられる唯一のことなんです。私たちにとって、死産であれ、生産であれ、赤ちゃんもお母さんも大切な存在です。人を大切にする。私たち看護師、助産師にとって、そこが原点なんです」
渡辺さんは、最近、担当したある40代女性のケースが忘れられない。彼女は、それまでも流産や死産を繰り返した。不妊治療の末に妊娠したが、年齢的にも最後のチャンスだろうと考えられた。けれど、待っていたのは、死産という残酷な結果だった。渡辺さんがエンジェルドレスを紹介しても「何もしなくていい」「赤ちゃんと会いたくない」と頑なに拒絶した。
しかし心境に変化があったのか。数日後にエンジェルドレスを着た赤ちゃんと対面を果たした母親は「こんなにきれいでいてくれて、ありがとう」と泣きながら、まだうっすらとピンク色をしたわが子の小さな手を握った。そして「ごめんね」「ごめんね」と繰り返し、詫びた。渡辺さんとともに、この母親を担当した4年目の助産師、新宮真子さん(26才)は言う。
「最初は死産に衝撃を受け、お母さんにどう声をかけていいのかもわかりませんでした。でもいまは、赤ちゃんに何かしてあげたいというお母さんの気持ちに少しでも寄り添って、お手伝いしたいと考えられるようになりました。死産を経験したお母さんが前向きに生きることはとても難しいと思います。それでも赤ちゃんと過ごす時間をつくることが大切なのかなと感じるんです」
物語は続く。次の妊娠は難しいと考えられていたこの母親は、いま新たな命を宿したという。また佐賀大病院で死産を経験し、エンジェルドレスを着たわが子を見送った母親が再び赤ちゃんを授かり、来院するケースもある。
「死産はつらかったけど、本当によくしてもらったから、もう一度、ここで産みたい」