『鎌倉殿の13人』も含め、多くの映像作品で馬術指導を担当してきたラングラーランチの田中光法氏
――それだけ愛されていたんですね。
田中:はい。初めて、乗馬クラブもすべてやめたくなっちゃったんです。何十年とやってきているので、馬の最期は何度も見てきてはいるんですけど、こんな気持ちになったのは本当に初めてで。撮影から何からすべて嫌になっちゃったんです。こんな思いをするんだったら全部やめようと思うぐらい。
でも、スピンの映像はこれからも残り続けるんです。亡くなった後にもこれだけの映像を残せる馬って本当に少ない。そう考えると、幸せな馬だったなと思います。
でも、その後ですごく嬉しかったことがあります。僕のフェイスブックにスピンが死んだということを書いたんです。そうしたら、多くの人がそれを見てくれて、大河の現場でご縁があった栗原英雄さんが堺雅人さんへ連絡を取ってくれました。そうして堺さんからも僕にメッセージが届きました。
その後、多くの役者さんや一般の大河ファンの方々からもメッセージ、お花、お香典までいただいて……。馬にとって、これまであり得ないことでした。それだけみんなに愛されていたということですよね。やっぱり、馬も立派な出演者なんです。
【プロフィール】
田中光法(たなか・みつのり)/1967年生まれ、東京都出身。ラングラーランチ代表。4歳のときに家族で山梨県小淵沢に移住。NHK大河ドラマ『葵 徳川三代』『武田信玄』『真田丸』や現在放送中の『鎌倉殿の13人』まで数々の映像作品で馬術指導を担当。
【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2022年7月29日号
