そもそもコレラはインドガンジス川デルタ地方が発祥で、ベンガル地方の風土病でした。しかし、18世紀末、イギリスのインド支配がコレラのパンドラの箱を開けることになります。インドに進駐したイギリス兵がコレラ菌の毒牙にかかって死亡。逃げ還った兵士がコレラ菌を各地にばらまき、それ以降6回のコレラ・パンデミックが起こりました。結果、人口の密集した都市のほとんどがコレラ菌に曝され、世界で数百万人以上が死亡したとされます。当時はまだ上下水道が未整備で、水の塩素消毒が行なわれていませんでした。
コレラ菌は人体以外にも、淡水や汽水、入江の水の中で細菌性生物として棲息しています。地球温暖化でさまざまな細菌が活発化するとの研究がありますが、コレラ菌も沿岸部の水温上昇で流行しやすくなる可能性がある、知っておきたい感染症なのです。
【プロフィール】
岡田晴恵(おかだ・はるえ)/共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士を取得。国立感染症研究所などを経て、現在は白鴎大学教授。専門は感染免疫学、公衆衛生学。
※週刊ポスト2022年8月5・12日号