新型コロナウイルス感染拡大防止の切り札と目された「ワクチン」は、変異を続けるウイルスを前に有効性が低下している。政府はそれでも「重症化を防ぐ」として5回目接種を検討する。効果とリスクを天秤にかけて、いまこそワクチンとのつきあい方を考え直すべきだ──。
新型コロナウイルスの第7波が猛威を振るうなか、都内の50代主婦・A子さんがため息交じりにつぶやく。
「4回目の接種もまだなのに、もう5回目の準備が始まっているなんて驚きです。高熱が出たり、腕が上がらなくなったり、副反応も怖いのに、いつまでワクチンを打ち続ければいいのか」
厚生労働省は今秋以降、ワクチンの5回目接種を検討することを専門家会議に提案した。60才以上や、18才以上で基礎疾患のある人などの条件付きだが、4回目の接種が進む最中に発せられた「4回打っても、まだ次がある」とのメッセージに、A子さんのように気が滅入る人も多い。
副反応に対する不安も少なくない。
厚労省は7月25日、ワクチンを接種した後に亡くなった91才の女性について、「ワクチン接種が原因で死亡した可能性が否定できない」として、法律に基づく死亡一時金の支給を決定した。女性のワクチン接種時期や種類、回数などは明らかにされていないものの、ワクチンが原因で亡くなったと国が認定した初めてのケースになった。女性はワクチンによって、急性アレルギー反応と急性心筋梗塞を起こしたという。
そうした不安を抱えながらも、政府が5回目の接種を推し進める背景にあるのは、最近の感染爆発だ。
これまで感染の主流だったオミクロン株の派生型「BA.2」よりも感染力が1.27倍強いとされる「BA.5」の登場により、7月下旬、東京の新規感染者は3万人を突破。全国では1週間の新規感染者が初めて100万人を超えた。すでにコロナに感染した人が再感染するケースも目立つようになった。ワクチン接種者が感染することなど、もはや当たり前のようだ。
それにしても、気になるのは接種間隔がどんどん短くなっていることだろう。
1回目と2回目は実質ワンセットで、当初2回目接種から8か月以上と定められていた3回目の接種間隔は、いつの間にか5か月後に短縮された。さらに現状では3回目から5か月以上とされる4回目についても、政府・自民党は接種間隔を見直す意向を示している。この秋に5回目を打つならば、さらに間隔は短くなるだろう。
矢継ぎ早に接種を求められる理由を、昭和大学医学部客員教授の二木芳人さん(感染症学)が解説する。
「2回目を打ってからワクチンの効果が落ちるのが予想以上に早く、接種後に感染するブレークスルー感染が出たことから、政府は後手後手に回って接種間隔を短縮しました。第6波で登場したオミクロン株はさらに早くワクチンの効果が落ちることがわかり、接種間隔のさらなる短縮が必要になりました」