スポーツ

【コロナと甲子園】感染拡大で予選辞退の群馬・西邑楽 不戦敗後に実現した幻の一戦

“幻の一戦”を終え、柳沢監督を囲んだ

“幻の一戦”を終え、柳沢監督を囲んだ西邑楽ナイン

 緊迫した投手戦、息をつかせぬ乱打戦──炎天下の甲子園球場(兵庫・西宮市)で、高校球児たちがはつらつとグラウンドを駆ける。だがその裏で、選手たちは相手チームとは別の“見えない敵”との戦いも強いられていた。ノンフィクションライターの柳川悠二氏が、コロナ禍の影響を受けた球児たちの夏をレポートする。【全3回の第2回。第1回から読む

 * * *
 この夏、コロナは地方大会でも球児を苦しめ、甲子園の夢を打ち砕いた。宮城大会では東北高校に、静岡大会では常葉大菊川にクラスターが発生し、メンバーを大量に入れ替えて戦うも大敗を余儀なくされた。いずれも優勝候補の一角と目されていた。

 奈良大会では、決勝進出を決めていた生駒が、大一番を前にメンバーが大量離脱。登録メンバー20人のうち12人を入れ替えて決勝に臨むも0対21で敗れた。勝利した天理ナインは、甲子園出場を決めても生駒の選手たちの心情に配慮して喜びを表さず、高校野球ファンの胸を打った。そのお返しとばかりに、天理が戦った甲子園の二回戦(8月12日)を、アルプス席から生駒のナインが応援する姿もあった。

 わたしも全国の地方大会を廻るなかで、コロナによる登録メンバーの変更は幾度も目にした。大会途中に陽性者となった選手が、隔離期間を終えて復帰することもあった。地方大会は甲子園で行われる選手権大会と違ってPCR検査が義務づけられていない。それゆえ陽性認定されて欠場を余儀なくされても、発症日をはっきりさせず、早期復帰させる学校もあったという。

 しかし、ベストメンバーは組めずとも敗れて引退を迎えられただけ、彼らは幸せだったかも知れない。宮城大会の準決勝を辞退した仙台南のように、戦わずして最後の夏を終えたチームもある。群馬の西邑楽もその1つだ。

 7月12日に行われた群馬大会一回戦で延長タイブレークの末に劇的勝利を挙げた西邑楽は、同18日の二回戦で藤岡中央と対戦する予定だった。ところが、試合の3日前となる15日になって3人の陽性者が出てしまう。柳沢英希監督(41才)が振り返る。

「主力の3人がいない不安はあっても、それでもなんとか試合はできると思って準備していました」

 だが、翌16日に1人の選手が体調不良で練習に現れない。検査結果は陰性だったが、17日になって別の2人が発熱し、練習を中止して自宅待機を指示。そのうち、1人の陽性が確認された。辞退もやむを得ない──柳沢監督はそう考えていた。校長に伝え、学校医とも相談を重ねた。

「感染が広がっている状況で、試合に参加してしまって、対戦相手や関係者に感染させることはできません。どこかで(感染拡大を)断ち切らなければならない。決定的だったのは、レギュラーの半数が感染してしまったこと。それで出場辞退という結論になりました」(柳沢監督)

 柳沢監督は陽性者を除いた3年生の部員1人ひとりに電話をかけた。最終決断は、直接伝えなければならない。直感的にそう感じた。

「こんなことになって申し訳ない。理解してくれ」

 電話の向こうでは、ほとんどの部員が泣いていた。

「みんな試合に負ける悔しさは知っています。しかし、コロナで出場辞退するというのは、誰もが経験したことのない感情で、ショックは計り知れません」(柳沢監督)

関連キーワード

関連記事

トピックス

林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
「パー子さんがいきなりドアをドンドンと…」“命からがら逃げてきた”林家ペー&パー子夫妻の隣人が明かす“緊迫の火災現場”「パー子さんはペーさんと救急車で運ばれた」
NEWSポストセブン
豊昇龍
5連勝した豊昇龍の横綱土俵入りに異変 三つ揃いの化粧まわしで太刀持ち・平戸海だけ揃っていなかった 「ゲン担ぎの世界だけにその日の結果が心配だった」と関係者
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン