メンバーの大幅入れ替えを余儀なくされながらも、県岐商の選手たちは最後まで試合を戦い抜いた(共同通信社)
クラスターの発生後に急きょ、県立岐阜商業(県岐商)の鍛治舎監督は岐阜に残っていた1、2年生のメンバーを呼び寄せた。全体練習を再開したのは試合のわずか2日前だった。スクランブルで迎えた初戦のマウンドに、鍛治舎監督は先天性難聴のハンデを抱えながら、岐阜聾学校中学部から県内随一の強豪校に進んだ山口恵悟を送った。
だが、2回途中5失点。チームを勇気づける結果は残せなかった。2年生で、来夏もある山口を監督はこう叱咤した。
「交代を告げた際、『こういう劣勢のときほど逃げちゃダメなんだ! インコースにズバッとストレート。連打されたらインコース! そういうピッチングをしないとこういう場所では打ち込まれるぞ』と厳しく伝えました。次に生かしてくれると思います」
試合後、オンラインで行われた取材では、山口の前に立った学校関係者が記者の質問を繰り返し、口の動きで内容を伝えるという異例の形式で行われた。
「たくさん点を取られて、悔しい気持ちが大きい。来年もがんばりたい」(山口)
3人目のピッチャーとしてマウンドに上がった古賀暖人は、この日登板した5人の投手のなかで、唯一の3年生だった。最長の4イニングを投げ、1失点の粘投だった。敗れはしたものの、一度は諦めかけた試合を無事に終えられた。だが、不運はまだ続く。試合の翌日、鍛治舎監督からわたしにメッセージが届いた。
《試合後、身体の免疫力が落ち、コロナの陽性中等症に。全身の倦怠感と咳で、緊急入院となりました》
不整脈で倒れたことがあり、心臓に不安を抱えるため心配は尽きないが、「早く復帰して秋に向かいます」と、すでに心は新チームに向かっていた。
大会本部は8月15日、初戦に勝利した24校を対象にしたPCR検査で、6校12名(指導者含む)の陽性者が出たことを公表した。その都度、登録メンバーの変更は行われるものの、二戦目以降はPCR検査を実施しない。「ウィズコロナ」時代の高校野球の戦いはまだまだ続く。
(了。第1回から読む)
●柳川悠二(ノンフィクションライター)
※女性セブン2022年9月1日号
開会式は、各チームの主将のみが行進する異例の形式だった(共同通信社)