音響効果を担当した柴崎憲治氏(撮影/藤岡雅樹)
――現実ではその音は聞こえないとしても、音そのものは現実のように作っている、と。
柴崎:ええ。アニメっぽくしたくないというのが僕の中にはあります。より理想を言えば、本当に人間が動いているリアリティでやりたい。ただ、その現実以上に誇張してあげないといけないわけです。アニメの動きは実際の人間が動いているものとは違いますから。
だから、「リアル」にした方がかえって嘘くさくなるんですよね。そういう点でもアニメの方が実写より手間がかかるんですよ、
――あれだけ多くの音が一つのシーンにありながら、邪魔し合っていません。そこはどう工夫を?
柴崎:バランスですね。一つ一つが出過ぎないように、抑えすぎないようにしています。スタジオに入ったら、音を全て並べて、それぞれのバランスをとってあげるんです。ある音が聞こえたり聞こえなかったりするのは、そういう作業をやるからです。
――たしかに、たとえば足音でいっても、場面によって聞こえたり聴こえなかったりします。
柴崎 実際、人間って集中していたりすると、その空間にある全ての音は聞こえないでしょう。だから、足音にしても全てのシーンで聞こえていたらおかしいわけです。そういうのは計算してやっていかないといけません。
【プロフィール】
柴崎憲治(しばさき・けんじ)/1955年生まれ、埼玉県出身。アルカブース代表取締役。音響効果の重要性を映画界に認知させた立役者の一人。「日本一多忙な音効マン」の異名も。今年公開の担当作に『大怪獣のあとしまつ』『死刑にいたる病』『峠 最後のサムライ』など。
【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。
※週刊ポスト2022年9月2日号